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大阪桐蔭はやっぱり技巧派サウスポーが苦手?「137キロ」が速く見える智弁学園・西村王雅の巧みな投球術
text by
西尾典文Norifumi Nishio
photograph bySankei Shimbun
posted2021/03/25 06:01
昨秋に続いて大阪桐蔭に勝利した智弁学園。先発左腕・西村王雅の好投と破壊力ある打線で“初戦に強い”優勝候補に競り勝った
大阪桐蔭打線を苦しめた巧みな投球術
大阪桐蔭の3番・宮下隼輔、4番・池田陵真といった右の強打者に対して外角を中心に攻めるというのは逃げの投球に思われるかもしれないが、そう感じさせないところに西村のピッチングの非凡なものがあった。
その1つの要因として、同じ球種を続けたところが挙げられる。
2回に迎えた池田の第1打席ではストレートを4球続け、空振り三振を奪っている。ミート力も抜群に高い主砲がストレートに空振りしたシーンを見て、大阪桐蔭の選手たちは西村のボールの勢いを感じたはずだ。
そうかと思えば、6番・花田旭にはカーブを3球続けてサードゴロ。3回の先頭打者の藤原夏暉(両打ち)には再びストレート3球でレフトフライに打ちとっている。何球も同じ球種を投げることは勇気がいることだが、その結果として打ちとられると打者は精神的なダメージが残るものである。そのダメージが大阪桐蔭の反撃を遅らせたことに繋がったのではないだろうか。
ギリギリまでボールが見えない
ちなみにこの日の西村の最速は137キロと、今大会で登場した投手の中でも決して速い方ではない。しかし最速141キロをマークした松浦と比べても明らかにボールの勢いが感じられた。
ここ数年話題になっている回転数などは明確なデータがないため不明だが、それ以上に影響があったように思うのは西村のフォームだ。ギリギリまでボールの出所を見せず、鋭く体を回転させて腕を振れているため、どうしても打者も見ているこちらもボールを目で追うのが遅れるような感覚があるのだ。
さらに5回には走者がいないにも関わらず連続して何球もクイックモーションで投げるなど、ボールだけでなくフォームにも緩急をつけていた。
今大会は好投手が多く、140キロを超える投手が続々と登場しているが、決してスピードはなくても大阪桐蔭のようなチームを抑え込むことができる。西村のピッチングはそのことをはっきりと示したと言える。秋に続いて大阪桐蔭を破ったことは、西村自身に大きな自信を与えただろう。
打線は出場校の中でも指折りの破壊力がある智弁学園だけに、西村がこの日のような投球を続けることができれば、2016年以来となるセンバツ優勝も見えてくるかもしれない。