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捕手→レフト→ショート「甲子園まで半年で大胆コンバート」 京都国際高校、“異色の育成”は何が違うのか?【センバツ】
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氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKYODO
posted2021/03/24 19:30

7回表京都国際1死満塁、1番武田侑大(ショート)が中堅に走者一掃の三塁打を放つ。武田は捕手として入部し、昨秋はレフトを守っていた
二塁送球のスローイングタイムは筆者の手元の計測で1.91をマークした。高校生であれば2秒を切ればドラフト候補クラスとも言われるだけに、推して知るべしだろう。
しかし、実は、昨秋、中川の課題はスローイングだった。近畿大会で8個の盗塁を許してしまっていたのだ。
中川はいう。
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「去年の秋は盗塁を刺すことが出来なかった。その反省から冬の間に鍛えてきたので、こういう場で披露というか、いい部分が出たんで良かったと思います。最後のピンチでのリードは、投手の球威が落ちてきたんで、バックを信じてゴロを打たせる配球をしました」
もちろん、ミスがなかったわけではないが、アウトにしたプレーだけでなく、一塁への牽制を送るなど、肩を何度も見せつける中川のプレースタイルからは、取り組んできたことへの自信さえ感じたものだ。
「東海大菅生さんは優勝候補と聞いています」
試合は初回に森下が安打と四球でピンチを招き、適時打とワイルドピッチで2点を先行された。その後はなんとか持ちこたえたものの、6回からは森下から2枚看板のもう一人の投手・平野順大にスイッチ。「100球に近づいていたのもあるし、イニング途中からより頭からいく方がいいと思った。3、4回くらいから選手には伝えていた」と流れを変えるべく送り込んだ。
7回表に相手のミスに乗じて1死満塁の好機を作ると、1番の武田が走者一掃の適時三塁打を放って逆転に成功した。直後に追いつかれて9回でも決着がつかずに延長10回までもつれたが、1死二塁から中川の適時打などで2点を勝ち越した。
10回裏は1点差に詰め寄られたが、2死二、三塁から最後の打者をショートゴロに打ち取ってゲームセット。武田はコンバートされたばかりとは思えないほどの軽快な捌きでゲームを締めた。
小牧は試合を総括する。
「こちらのミスばっかりだった。負け試合ともいえる試合でした。柴田高校さんは粘り強くて、うちの野球をさせてもらえなかった。10回表に2点取れて、その裏を1点に抑えられた。最後は武田がしっかり処理してくれたと思う」
そう言ってチーム一丸の勝利とも口にしたのだが、質問が次戦への意気込みへ向かうと、彼の信念が顔を出した。
「(2回戦で対戦する)東海大菅生さんは優勝候補と聞いています。そういうチームと戦えるのが甲子園という舞台なので、思う存分、甲子園というブランドを楽しんでもらいたいなと思います」
甲子園という舞台において、強豪との対戦が選手を育ててくれる。そう言いたげだった。
初出場校とは思えない育成型のチームが京都国際である。
