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「お前、バカか」から安打製造機へ… 内川聖一の“特異な技術”を支える恩師・杉村コーチの教え、そして再会
text by
花田雪Kiyomu Hanada
photograph byNaoya Sanuki
posted2021/03/26 11:05
内川の打撃技術はNPBだけでなくWBCの舞台でも鮮やかに輝いた
「フェアゾーンを90度フルに使う」意識を突き詰めた内川は、プロでもあまり耳にしない特異な技術を持っている。
それが、「ファウルゾーンから、フェアゾーンに入ってくる打球を打つ」ことだ。
フェアからファウルに切れるのが「もったいない」
通常、アウトコースを逆方向に、インコースを引っ張って打つと、打球はフェアゾーンからファウルゾーンへ切れていくような軌道を辿る。しかし、内川はそれを「もったいない」と語る。
「アウトコースは、ボールの外側を叩いて、引っかけるようなイメージでフック回転をかける。インコースは逆にボールの内側を叩いてバットを滑らせるようなイメージで、スライス回転をかける。そうすると、ラインギリギリの打球が切れずにフェアゾーンに戻ってくるんです。そうすれば、本来はファウルになるはずの打球が、フェアゾーンに落ちてヒットになる可能性が出てくる」
言葉で説明する事すら難解なこの技術を、内川は打席内で実践しているという。
必ず「僕の場合は」という枕詞がつく
プロで生き抜くために、試行錯誤を繰り返し、身に付けた技術――。
しかし、内川はそれすらも「すべてが正解ではない」と言う。自らの打撃理論を語るたび、彼は必ずと言っていいほど「僕の場合は」という枕詞を付けるのだ。
「世の中にはいろいろな理論がありますが、どれが正しい、どれが間違っているということはないんです。言ってしまえば、すべてが正解でもあるし、すべてが間違いでもある。重要なのは何が自分に合っていて、どういうタイミングでそれに触れることができるかです」
こう言えるのも、20年間というプロキャリアの中で彼がつねに新しいものを取り入れ、取捨選択を繰り返し続けてきたからだろう。
2021年、内川聖一は新天地でプレーすることになったが、奇しくもチームには自身のスタイルチェンジのきっかけをくれた恩師・杉村がいる。
数々の記録を残しながら、今なお進化の手を緩めない稀代の安打製造機――。
その姿から、今季も目が離せない。
(取材協力/WHITE BOARD SPORTS)
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