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楽天・田中将大「伝説の8球」を振り返る 涌井秀章「ダルビッシュや僕よりも大人な投球しますよね」
posted2021/03/27 11:04
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
JIJI PRESS.
これも「準備」の一環だと捉えれば、悲観なく凱旋を待ちわびることができる。
今季初登板を翌日に控えた3月26日、楽天の田中将大が右足のヒラメ筋を損傷したと、球団が発表した。実戦復帰までおよそ3週間の予定。楽しみは、持ち越しとなった。
ベールを脱ぐのは今ではない。球団を通じて「怪我の程度は軽傷」であると田中自身が伝えているが、状態が万全でない限り、登板を回避した彼の決断は正しかった。
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そう、無理をしない。これは、田中が楽天に合流した時から徹底してきたことだ。
メディアが注視してきた、日本の湿り気があるボールとアメリカより柔らかいマウンドについては、1月の入団会見から田中自身が、「アジャストできるように練習する」と繰り返してきたように適応を見せる。それは、チームトップの16回を投げ、防御率2.25というオープン戦の成績が物語る。
第一次楽天時代から田中の絶対的球種だった、スライダーとスプリットは精度を上げた。ストレートはもちろん、変化球でも「高めでストライクを取る」というメジャーリーグ仕込みの投球術をチームに浸透させ始めるなど、ニューヨーク・ヤンキースでの7年間で78勝の成果をパフォーマンスで実証する。
それでもきっと、現時点で田中はまだまだ本気を出していない。真剣勝負の場でこそ、「絶対エース」と呼ばれた男は力を発揮する。
田中将大「伝説の8球」
田中が「一流」と称される能力がある。そのひとつがギアチェンジだ。
1点も与えられない窮地などで一気に出力を高め、打者を制圧する。田中はそれを、高性能のマニュアル車の如く、1速、2速……そして、トップギアへと自在に操れるほど、この能力に長けているというのだ。
8年前から、凄味を出していた。
楽天が球団初のパ・リーグ制覇を遂げた、13年9月26日の西武戦。1点リードの9回、従来は先発の田中が抑えとしてマウンドに上がり、1死二、三塁の絶体絶命のピンチで一気にギアをトップまで上げる。3番・栗山巧、4番・浅村栄斗をオールストレートで連続三振に打ち取り、勝利をもたらしたパフォーマンスは、「伝説の8球」としてプロ野球界の語り草となっている。