酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
高校野球部員が“6年で19%減”… 初センバツの公立・三島南の監督が語る「幼稚園児への普及」に力を入れる理由
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKou Hiroo
posted2021/03/19 17:02
三島南高校は野球普及活動などが評価され、21世紀枠でセンバツ初出場を果たした
硬球に初めて触れて驚く女の子も
三島市内の保育園では、ユニフォーム姿の選手たちが、幼稚園児の前に並んだ。この風景自体が新鮮ではあった。
三島南高校の稲木恵介監督が、びっくりしている園児を前にこうあいさつしていた。
「これからお兄さんたちが、野球をやります。すごいボールを投げますからしっかり見てください」
投手が本気のボールをミットに投げ込むと子供たちが歓声を上げた。野球部員を見る目が変わったように感じられた。硬球に手を触れて驚く表情を見せる女の子もいた。
「最近はシングルマザーの家庭が多い影響からか、野球を見たこともしたこともない子供も多いんです」
幼稚園の先生はこう言った。
ここから子供たちに柔らかいボールを使って「投げる」「打つ」「取る」を体験させ、最後は簡単なゲームで締めくくる。子供たちは熱気で顔をほてらせ、大声をあげながらグラウンドを駆け回った。大盛り上がりだった。
野球部員たちは、手慣れた感じで用具を配置したり、子どもたちを指導していた。実は三島南高校は「200年構想」が発表される4年も前からこうした活動を続けていたのだ。
「野球離れ」に危機感を持った監督が2014年から開催
稲木監督は地元・三島市の「野球離れ」が進んでいることに危機感を持って、2014年12月から年2回程度、幼稚園や保育所をまわる野球教室を始めたのだ。
しかし当初、地元の高野連は三島南の取り組みにそれほど理解があったわけではない。ファーストユニフォームで幼稚園に行ったことを注意されたこともあったという。
その後も筆者は稲木監督から、三島南高校の野球普及活動の情報を定期的に頂くようになった。昨年11月、12月にも同校は小学生を対象に野球教室を実施している。
筆者はその後、東京都立新宿高校など各地の高校が実施する未就学児、小学校低学年の野球教室の取材をした。こうした取材でいつも実感するのは「教えている野球部員たちの表情が変わってくる」ということだ。