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Jリーグ審判が使う「シュッと消える」スプレー秘話 開発した鹿島&浦和の熱烈サポーターがこだわった“芝への影響”とは 

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熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

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photograph byJ.LEAGUE

posted2021/03/18 11:01

Jリーグ審判が使う「シュッと消える」スプレー秘話 開発した鹿島&浦和の熱烈サポーターがこだわった“芝への影響”とは<Number Web> photograph by J.LEAGUE

Jリーグで使用される“国産”のバニシングスプレー。その開発には人知れぬ苦労があった

いきなりぶつかった特許問題「お先真っ暗」

 手始めにバニシングスプレーのリサーチを始めたふたりは、いきなり天を仰いだ。海外製のスプレーが国際特許を取得していたからだ。類似品をつくると、訴訟になるかもしれない。弁理士と特許を精査しながらリサーチを続けるうちに、いくつかの同業他社がバニシングスプレーに興味を示しながら、製品化を断念したということもわかってきた。

 それでもふたりは、試作品をつくってみることにした。だが案の定、特許の壁が立ちふさがる。

「あちこちの研究担当にお願いしたところ、“この特許は回避できないよ、ウチではつくれない”と言われて、ことごとく断られてしまったのです」(金丸)

「いきなり外堀を埋められたような状態になり、目の前が真っ暗になりました」(悉知)

 それでもふたりは粘りに粘って、なんとか研究担当者の協力を取りつける。同業他社があきらめた厄介な案件。反対する製造現場をなかば強引に巻き込めたのは、ふたりがただただJリーグが好きだったからだ。自分たちの作った商品で、大好きな世界を盛り上げられるかもしれない――そんなピュアな思いで、いばらの道を切り拓いていった。だれかに命じられた仕事だったら、すぐに音を上げていたかもしれない。

芝の知見はゼロ、すべてが手探り

 試作品をつくるにあたって、ふたりは自分たちがこれから作るバニシングスプレーのイメージを思い浮かべた。

「芝生に吐出する商品なので、芝に影響を与えないようなもの、もしくは芝を養生するものをつくれないかな。そんなものをつくることができたら、特許を取得できるかもしれない」(悉知)

 そう思いながら、ちょっと待てよと立ち止まった。

「よくよく考えたら、スプレーを吹きかけたところだけ芝が伸びるって、果たしていいことなのか?」(悉知)

「むしろグラウンドキーパーに迷惑かけるかもしれないよね」(金丸)

 スプレーを熟知するふたりも、芝の知見はゼロに等しい。商品開発は手探りの中で進んだ。

 それでも“芝を養生する”という素人に近い発想は、商品開発の大きなモチベーションとなった。海外製のスプレーとは違う独自性を打ち出すことで、特許を取得する突破口が開けるかもしれない。

 ふたりはひとまず試作品をつくり、近所の草むらに出かけて海外製スプレーと試作品のふたつを雑草にかけて経過観察を行なった。どちらも葉の色が微妙に黄変する、ということはわかった。

「我々が検討した製品はケミカル品という側面があるので、植物に与える影響が強いのでは、と考えました。とくに海外製品の成分はその傾向があるのではないかと」(悉知)

「ただ、自分たちでそのことを検証したところで、なんの証明にもならない。では、どうしたら海外製のスプレーより自分たちのものがフィールドにやさしいと証明できるか。それができないと話は進まない」(金丸)

 ふたたび行きづまったふたりは、農林水産省に問い合わせた。すると農薬などの植物への薬害を調べる、日本肥糧検定協会という機関があることがわかる。ふたりは藁にもすがる思いで、肥糧検定協会にお願いした。

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