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Jリーグ審判が使う「シュッと消える」スプレー秘話 開発した鹿島&浦和の熱烈サポーターがこだわった“芝への影響”とは
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byJ.LEAGUE
posted2021/03/18 11:01
Jリーグで使用される“国産”のバニシングスプレー。その開発には人知れぬ苦労があった
記念すべき“デビュー”の対戦カードは…
ふたりが『FKマジックライン』と命名した新しいバニシングスプレーは、2017年2月18日、日産スタジアムでのゼロックス・スーパーカップで待望の“デビュー”を飾る。
数々の苦闘を乗り越えたふたりをねぎらうかのように、鹿島と浦和という顔合わせとなった。
「この日ばかりは勝敗よりもスプレーのことばかり考えていて、“早くフリーキックになれ”と念じていました」(悉知)
待ちわびたシーンは開始早々に訪れ、浦和が左サイドでフリーキックを獲得する。ふたりが緊張の面持ちで見守る中、木村博之主審は腰からスプレーを手に取り、淀みのない動きでササッと短いラインを引いた。美しい緑の芝に、鮮やかな泡のラインが描かれる。
「やったやったー!」
この瞬間、ふたりは手を取り合って歓喜した。周りの人たちには、なんのことだかわからなかったに違いない。
「このプロジェクトを始めたとき、実際に上手くいくかどうかはわかりませんでした。でも満足するものができて、大舞台で陽の目を見ることになった。ものすごくうれしい瞬間でした」(金丸)
「ぼくらはJリーグが生まれたときに夢中になった世代なので、その夢の舞台に自分たちがかかわった商品が使われるというのは格別な思いです。いろいろ大変な時期もありましたけど、苦労とは思わなかったですね。だって、商品を開発する中でグラウンドキーパーや審判といった、通常ならお会いできないプロフェッショナルな方々との出会いがありましたから」(悉知)
記念すべきデビュー戦は、3-2で鹿島が凱歌を上げた。
いまでもふたりは、FKマジックラインの稼働ぶりを確認するため、しばしばスタジアムに足を運ぶ。
「でも、いまではすっかりスプレーのことを忘れて、ゲームの流れに一喜一憂してしまうんですよ」(悉知)
それはふたりが手塩にかけて育てた『FKマジックライン』が、まったく違和感なくゲームに溶け込んでいる証でもある。