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サッカー選手“引退後”の現実とは イングランドでは40%が4年以内に破産、3分の1が1年以内に離婚
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/02/15 11:01
華々しいプロの世界とは裏腹に、引退後のセカンドキャリアに苦しむアスリートは少なくない。今回はドイツの育成事情を参照しつつ、第2の人生を充実させるための枠組みについて考えていこう
ヘスキーは大学施設による数年にわたる研究報告を挙げ、警鐘を鳴らしている。
「イングランドではプロ引退後の選手の40%が4年以内に破産している。(アメリカの)NFLではもっと顕著で70%という数字が出ている。そして、3分の1が1年以内に離婚している」
これは衝撃的な数字だ。
高給取りの選手の場合、毎月手取りで10万ユーロ(約1300万円)を稼ぐこともある。一月に3万ユーロ(約390万円)を使ったとしても痛くも痒くもない。なんといっても、翌月にはまた10万ユーロが入ってくるのだから。
そうした状況で、日々の生活を規則正しく、健全にプランニングするのは難しい。特に若いころは本当に難しい。よほど意識しなければ感覚は鈍り続けていく。引退してからも現役時代の感覚を払拭できず、生活水準を下げられないパターンが多いようだ。
金銭問題だけではない。世間からの注目も大きく変わってしまう。シャルケで活躍した元ドイツ代表DFベネディクト・ヘベデスはこのように語っている。
「選手時代は常にメディアから注目されて、SNSではファンからたくさんのフィードバックをもらう。でも引退した瞬間それがピタッとなくなるんだ。誰からも褒められないし、誰からも批判されない。そうするとおかしな気持ちになってしまうんだ。選手はそうした時期に備えて準備をしておくべきだと思う」
第2の人生を左右するマインドセット
とはいえ、社会において1人の人間として新たな一歩を踏み出すための準備をどれだけの選手がしているだろうか。
何が自分に合っているのか。1人の人間として自分に何ができるのだろう。何を喜びと感じられるのだろう。そうやって自分と向き合う時間を持てるかどうか。そこが引退後の生活を左右する重要なポイントになる。
現役時代にバイエルンでプレーしたこともある、ドイツ代表U21コーチのアントニオ・ディサルボは引退後、自分にはどのような道が合っているのかを見出すために、可能性を幅広く捉えてみることにしたという。