フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
「失敗しても人生が終わるわけではない」全米選手権5連覇、ネイサン・チェンが見せた3つの強さとは
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byMatthew Stockman/Getty Images
posted2021/01/23 06:00
全米選手権で5連覇を達成したネイサン・チェン
大手メディアがやってきた理由とは
この大会のオンライン会見には、USAトゥデイやニューヨークタイムズが参加していた。こうした米国の大手新聞社がフィギュアスケートの取材にやってくると、ああ、来季は冬季オリンピックなのだと実感する。これらの記者たちは、GPシリーズにも、世界選手権にもほとんど顔を見せることはない。4年に1度のオリンピックの前後にだけ、取材にやってくるのだ。
「2018年オリンピックの後、急に強くなったのはどうして?」
「平昌オリンピックのSPの失敗のことを、今でも思い出す?」
我々のように毎シーズンフィギュアを取材してきた記者たちには、ずいぶん昔のことを掘り返してきたなあ、という感じがする。でも彼女たちがこういう質問をするのは、何も意地悪な気持ちからではない。
チェンが以前に単独取材で「フィギュアスケートはアメリカではニッチなスポーツですから」と口にしたことがあるが、それはまんざら謙遜ではない。アメリカでは、ネイサン・チェンがGPファイナルや世界選手権で優勝しても、世界で初めて5種類の4回転を成功させても、スポーツニュースですらほとんど取り上げてこなかった。
一般のアメリカの人が興味があるのは、前回は失敗したオリンピックで、次はチェンがメダルを取れるのかどうか、ということだけなのだ。
チェンの強さの根底にある俯瞰的な人生観
「前回は逃した金メダルを次のオリンピックで取るのは、あなたにとってどれほど重要なことなの?」
USAトゥデイの記者にそう聞かれたチェンは、力む様子もなく、自然体のままこう答えた。