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「失敗しても人生が終わるわけではない」全米選手権5連覇、ネイサン・チェンが見せた3つの強さとは
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byMatthew Stockman/Getty Images
posted2021/01/23 06:00
全米選手権で5連覇を達成したネイサン・チェン
フリーでは、さらなる試練が待っていた
「会場内にいたので、ビンセントが何をやったのかは知っていました。でも彼の能力はわかっているので、(ジャンプを)やるかやらないかではなく、どうやるかだろうと思っていました。他の選手がどのような演技をするかは、自分がコントロールできることではない。自分にできるベストな滑りを見せることに集中して挑みましたが、今日のような演技ができたことは、嬉しく思っています」
年下のライバルに追い詰められても、決して自分を見失わないチェンの精神力だった。
翌日のフリーでは、さらなる試練が待っていた。
ミスは、練習でいつも経験しているので想定内
フィリップ・グラスの音楽に合わせて演技をスタートしたチェンは、最初のジャンプ、4ルッツの着氷でエッジがすっぽ抜けて両手をついた。彼にしては珍しい、いきなりジャンプミスの出だしになったのである。
残りのあと3分半で、チェンは4回転を4度と3アクセルという過酷なジャンプ構成を予定していた。
チェンはそこから4フリップ+3トウループ、3ルッツと1つ1つジャンプを着実に決めていった。4サルコウ、スピンとステップを経て後半で2度の4トウループをどちらもコンビネーションで跳び、スケートアメリカではパンクした最後の3アクセルも、ここではしっかり決めた。
何という身体的、精神的な強さだろうか。最初のミスから、どうやってあれほど早く立ち直ったのか。そう質問されたネイサンは、こう説明した。
「あのようなミスは、練習でいつも経験しているので想定内のこと。だから特に動揺することはなかったです。繰り返さないように、なぜミスしたのか一瞬考えて、次のジャンプに向かう時はもうそちらに集中して、ミスのことは頭から消えていました」