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井岡一翔の“タトゥー論争” 入れ墨を入れた元世界王者・佐藤洋太は「ルールよりも気遣いだと思います」 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2021/01/10 11:03

井岡一翔の“タトゥー論争” 入れ墨を入れた元世界王者・佐藤洋太は「ルールよりも気遣いだと思います」<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

圧倒的な強さで大晦日の田中恒成戦を制した井岡一翔はその後大きな論争を巻き起こした

「やっぱり知らない人が見たら怖いと思うんです」

 佐藤さんが入れ墨を入れる理由は100パーセントがファッションだ。高校生のときからファッションに関心が高く、隠れて学校で禁止されていたピアスをつけ、コンパスの先で足に入れ墨を彫るいわゆる“いたずら彫り”をしていた。

 初めて入れ墨を入れたのはプロボクサーになる前で、プロに入ってからJBC職員に「もう入れるなよ」と言われ、「はい、分かりました」と答えておきながら、試合では見えないところに新しいタトゥーをこっそり入れたこともある。引退してからはさらに増やしているというから筋金が入っている。

 そんな佐藤さんに「タトゥーを入れて何が悪いんだ」とか「世の人たちはもっと入れ墨に理解を示すべきだ」という気負いはない。温泉に行くとできるだけタオルで体を隠し、人のいない時間帯を狙ってコソコソと湯に浸かる(あくまで入れ墨禁止でない温泉で)。海に行っても服は脱がない。夏でも長袖のシャツを着るようにする。それも気遣いだという。

「やっぱり知らない人が入れ墨を見たら怖いと感じると思うんです。人は知らないことを恐れると言います。その最たるものが死であると。それと同じ理由でよく分からない入れ墨って怖い。どんな人か分からないし、あまり目にすることもないし、どうやって入れるかも分からない。だから怖い。怖がる人がいるんだからそこも気遣いですよね」

「あんまり流行ってほしくないです」

 では多くの人たちが入れ墨を怖がらない世の中になればいいのだろうか。それを望んでいないところが佐藤さんならではの考えと言えるだろう。

「入れ墨ってもともとアンダーグラウンドなものだと思ってますし、堂々と見せないということで一線を画したファッションになっていると思うんです。そして覚悟のいるファッションでもありますよね。消えませんから。世の中の人が入れ墨のことを知らないと言いましたけど、オレはそれでいいと思ってるんです。あんまり流行ってほしくない。せっかく一線を画したファッションをやってるのにあんまり増えると困るじゃないですか」

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