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【セパ格差危機に提言】先発完投は今や時代錯誤? 10完投以上したエースが翌年低下する数値とは
posted2020/12/02 11:02
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Hideki Sugiyama/Kyodo News
このコラムで日本シリーズで巨人が惨敗した原因として、「DH」とともに「先発完投型の投手起用」だと指摘した。エースが大車輪の活躍をしてチームを優勝に導いたのは、昭和の時代のプロ野球だ。それから何十年も経過し、日本プロ野球は大きく変貌したにもかかわらず「先発完投」の4文字は今も根強く残っている。
本当に「先発完投」は今の野球に必要なのか、考えてみたい。
日本野球の伝統はエースを中心とした「守りの野球」だった。バットを振り回すアメリカ野球に対して、つなぐ打撃でもぎとった少ない得点を、エースが腕も折れよとばかりに力投して守り抜く。これが日本野球の美学だった。
エースが中心のチームが覇権を握った昭和
プロ野球も昭和の時代は、エースを中心にしたチームが覇権を握ってきた。
沢村栄治、ビクトル・スタルヒン、金田正一、稲尾和久、杉浦忠などの大投手は、チームを1人で背負ってきた。1961年、西鉄ライオンズの稲尾和久はチームイニング数の32.5%にあたる404回を投げて勝利数の51.9%に当たる42勝を挙げている。
稲尾はこの年30先発して25完投しているが、それ以外に48試合で救援登板をしている。昔のエースとは「先発完投」をする合間に、救援でも投げていたのだ。
このころの投手数は少なかった。この年の西鉄は、140試合を37人の選手で戦ったが、このうち投手は32.4%にあたる12人だけだった。
昭和の時代は「先発完投」型のエースがいれば、チームはペナントレースを有利に戦うことができたのだ。
しかし今は状況が大きく変わっている。今季、中日ドラゴンズの大野雄大は両リーグ最多の148.2回を投げたが、それはチームイニング数の14.1%に過ぎない。そして11勝はチーム勝利数18.3%に過ぎない。
また両リーグ通じて最多勝の巨人、菅野にしても14勝はチーム勝利数の20.9%だった。それもあって今は、投手の数が非常に多い。今年の中日は120試合を全選手のうち55人で戦ったが、このうち投手は50.9%にあたる28人もいるのだ。