酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
【セパ格差危機に提言】先発完投は今や時代錯誤? 10完投以上したエースが翌年低下する数値とは
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama/Kyodo News
posted2020/12/02 11:02
2020年の菅野智之と1958年の稲尾和久。60年以上の時を経れば、野球が変容するのも当然なのだ
NPBで最初に160km/hを記録したのは2008年、巨人のマーク・クルーン(162km/h)だとされるが、今は160km/hを出す投手は、両リーグで10人はいる。
それどころか、大谷翔平や佐々木朗希は高校生にして160km/hを計測している。今では高校生でもドラフト上位にかかるクラスの多くは普通に150km/hを出している。
球速が上がれば、投手の肩、ひじへの負荷は増す。そのスピードで長いイニングを投げれば故障やパフォーマンス低下のリスクが高まると言える。
野手の体格、球場のスケールも大型化
さらに、対戦する一流打者の体格が違う。
昭和の大打者、王貞治は身長177cm、長嶋茂雄は178cm、野村克也は175cm。当代の坂本勇人は186cm、柳田悠岐は188cm、中田翔184cmとやはり大きい。、もちろん173cmの吉田正尚や171cmの近藤健介のような「小さな大打者」もいるが、プロ野球選手はここ半世紀で確実に大型化した。当然、パワーも増大した。
それとともに球場の大きさも変化してきている。1988年に開場した東京ドームを皮切りとして、NPBの本拠地球場は大型化した。昭和の時代、球場サイズは両翼90m中堅120mほどだったが、今は両翼100m中堅122m、昔は多かった「飛距離100m以下のホームラン」はほぼ絶滅した。
昔の40本塁打と今の40本塁打は、サイズが全く違うのだ。
端的に言えば、昭和の野球と平成、令和の野球はスケール感が異なっているのだ。
多くの変化球を投げれば肩ひじにも影響が
広くなった球場でも大型化した選手を抑えるために――現代の投手はツーシーム、スライダー、チェンジアップ、カットボール、スプリッターなど様々に変化するボールを投げる。昔の投手は速球で空振りを奪ったが、今の投手はこうした変化球で三振を取っているのだ。こうした変化球の多くが速球以上に肩、ひじに負荷を与えると考えられている。
これら野球そのものの変化によって、昔のように毎試合「先発完投」して、何百イニングも投げるような投手は絶滅したのだと思う。
特にここ2、3年、菅野智之や大野雄大などごく一部の例外を除いて、先発投手の完投数が激減し、投球回数が減少している。2010年には28人(セ12人、パ16人)いた規定投球回数以上の投手が、2018年17人(セ8人、パ9人)、2019年15人(セ9人、パ6人)、2020年14人(セ6人、パ8人)と、どんどん減少している。
これは、日米のプロ野球が大きく変化していることと関係がある。