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ドラフトウラ話 “阪神3位”大学ラスト登板で大乱調なのに…他球団スカウト「スゴいの獲ったなぁ」の真意
posted2020/11/18 17:03
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
11月も半ばにさしかかり、学生球界最後の公式戦「関東地区大学野球」も、桐蔭横浜大学の優勝で幕を閉じて、いよいよシーズン終盤を迎えた。
今年は社会人の「都市対抗野球」があるので、さみしい思いもいくらか紛らわすこともできるが、やはり、心の中に冷たい風がスースー吹き抜ける。
そんなわけでもないだろうが、今年の関東地区大学野球は、風の冷たい大会だった。毎年楽しみにして足を運ぶ大会なのだが、今年は横浜スタジアムに高々と新設されたスタンド席が「ビル風」のような効果を生み出すせいか、吹き下ろす北風が寒くて困った。
4連続四球…ストライクが入らない
そんな、手もかじかむ強風に指先の感覚を失ったかのような乱調を修正できないまま、無念のマウンドを降りた投手がいた。
上武大・佐藤蓮(188cm101kg・右投右打・静岡飛龍高)は、10月のドラフト会議で阪神から3位指名の高い評価を受けていた。
試合巧者・創価大との準決勝。創価大に逆転ホームランが出た後の1死二塁で、佐藤蓮がリリーフのマウンドに上がる。この佐藤、今秋のリーグ戦の数字がすごい。15イニング投げて5安打17奪三振……四球は6つなら、そこまでじゃない。
しかし、この日は最初の打者・8番小関弘二中堅手(171cm75kg・右投右打・至学館高)にストライクが入らない。
持ち味の剛速球でまず1つ「ストライク」をとって落ち着かせようと速球を続けるが、その速球が高く抜け、逆球になり、指にかかり過ぎたショートバウンドも挟まる。
代わりばなから、四球が4つ続いて、収拾がつかない。投球練習から荒れていたから、打者に対しては、明らかに最初から「手投げ」になっていた。
体をダイナミックに使うフォームじゃないから、一見コントロールに苦しむタイプには見えないが、下半身が動かずに、腕だけが猛烈に振り下ろされるから、「上と下」のバランスがとれずに苦しんでいる。昔からあるオモチャの「でんでん太鼓」……あの感じが出てきてくれたら。
他球団スカウト「あのカーブ、もっと使えばいいのに……」
タテのカーブを混ぜ始めてから、少し落ち着いた。剛速球に振り遅れた外野フライが2つ続いて、やっとチェンジにこぎつける。
「それでも、真っすぐは全部150キロ、151キロでしょ」
上武大・佐藤蓮投手の“乱調”を目の当たりにしたスカウトが唸った。