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柔道・村尾三四郎が東京五輪代表落選の逆境で97キロにパワーアップ! 「ただシンプルに強くなる」極意
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2020/11/09 11:00
柔道講道館杯男子90kg級決勝での村尾三四郎。東京五輪代表の座を逃し、悔しい思いから這い上がっての優勝だった
東京五輪代表を逃し、一度はへこんだが
高校3年生で出場した18年11月のグランドスラム(GS)大阪大会で3位、19年2月のGSデュッセルドルフ大会で2位になり、19年世界選手権団体戦では日本チーム最年少でメンバー入りして金メダル獲得に貢献。秋の講道館杯では決勝でリオデジャネイロ五輪金メダルのベイカー茉秋を破って、東京五輪の代表候補の一角に名乗りを上げた。「自分は小さいころからオリンピックで優勝したいという思いがある。妥協することはなかった」と、強い思いも語っていた。
しかし、20年2月のGSパリ大会で3回戦負けを喫したことで男子90キロ級の東京五輪代表は19年世界選手権銀メダルの向翔一郎に。目標がかなわなかった村尾は「一度はへこんで、落ち込んだ」というが、その後はしっかりと気持ちを切り替えた。
次に向かって立ち上がったのとほぼ同じ時期に、新型コロナウイルス感染拡大による自粛が始まった。スポーツを取り巻く状況も激変し、東京五輪が1年延期され、国内大会は次々と中止になっていった。
試合に勝つというモチベーションではダメで
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そこで村尾が思ったのは、「何かの試合で勝つというモチベーションでは、なかなか気持ちが上がってこない」ということ。考えに考え抜いた村尾は、「ただシンプルに強くなる」というターゲットを見出し、前へと踏み出した。
この時期に取り組んだのが、東京五輪代表選考に関わる試合が続いていた19年にはできなかった「技」の習得や、「組み手」を改善するための練習である。「コロナでいろいろあったのも逆にチャンスかなと思って」と、弱点の強化に集中しながら春から初夏の時期を過ごした。
その後、暑苦しい夏を越してやっと開催された今回の講道館杯。2回戦から登場した村尾は、北野裕一(パーク24)と戦った3回戦を「体落」による一本で勝ち、続いて大町隆雄(山口県警)との準決勝も「内股」で一本勝ち。最後は長井晃志(日体大4年)との決勝を「小外刈」による2つの技ありで合わせ技一本として制した。
村尾は「技」と「組み手」の向上ぶりをはっきりと示していた。
まず、自分と同じ左組みの北野と戦った3回戦では、「相四つの相手に対して今までやったことのなかった『体落』を初めてやって、決めることができた」と、技の成長を実感。さらに、相手が右組みだった準決勝と決勝では、ケンカ四つの際の組み手の上達を見せつけた。