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大相撲の行司さんって土俵裁き以外に何をしている?「じつは番付の“習字”も私たちの仕事です」
text by
飯塚さきSaki Iizuka
photograph byJiji Press
posted2020/11/07 17:00
今回インタビューに応えてくれた三役行司の木村庄太郎さん
庄太郎 立ち合いです。呼吸を合わせて、いかに公平に立たせるか。お互いがきちんと手をつくのが理想ですが、行司としては、手をつくかつかないかよりも、二人の呼吸がぴったり合っているかを見ています。ただし、手をつく動作さえしてくれないときには「待った」と言って止めます。
――ほかに、裁きの際のポイントはありますか。
庄太郎 行司は、基本的にはまわしよりも下しか見ていません。それは、「負けを発見する」ためです。どちらが勝ったかではなく、どちらの足が出たか、どちらの手がついたかと、負けたほうを見つける作業をしています。負けを見つけて、勝ちの力士に軍配を上げる。それが裁きの基本です。
毎日の取組の簡単な「案」を作る
――では、ここからは裁き以外のお仕事について伺いたいと思います。まず、割場のお仕事についてですが、日々の取組編成は、審判部の親方衆が決めているんですよね。割場の行司さんたちは、そこからどういったお仕事をしているのでしょうか。
庄太郎 まず、上が東方、下が西方と、横綱から序の口まで全力士の名前が書いてある長い巻紙を用意します。そして、全員が出場したと仮定して、行司が取組を作成します。つまり、簡単な「案」を作って審判部にもっていくんです。そこから、全員の出場・休場を調べながら、横綱から順番に割を組んでいきます。割を組む際は、取組が決まったお相撲さんの名前の上に碁石を置き、まだ碁石が置かれていないなかからまた割を組むといった形です。こうして、場所の直前に初日と2日目の取組を作ります。
場所が進むにつれて、取組を決める審判部は、同じような成績の力士同士を当てるなどの考慮をしながら割を組んでいきます。そのなかで、例えば「その取組は千秋楽にとってある取組ですが、もう当てて大丈夫ですか」などと、行司から助言をします。
――最近は、本来上位陣と当たらない下位の番付の力士と上を当てる「割崩し」など、柔軟な取組編成が見られます。
庄太郎 そうですね。例えば、先場所の翔猿のように、たくさん勝っている力士がいると、本来組む取組を壊して、上位で勝っている力士と当てるんです。横綱が休場すると、そういったことがあります。通常は、2日目が終わる前に3日目、3日目が終わる前に4日目と取組を決めていきますが、終盤で優勝争いが混戦になると、一日の取組が終わってから翌日の割を決めることもあります。昔は、翌日の取組をテレビ中継に流すことを重視していましたが、いまは土俵の充実が優先です。
――ファンにとってはうれしいことですが、当の行司さんや審判部の親方衆にとっては、大変な作業ですよね。
庄太郎 そこまでするのは上(幕内)だけなので。とはいっても、取組ができたら入念にチェックするので、担当の行司は大変ですね。
――番付編成や横綱・大関の昇進については、行司さんはどのように関わるんでしょうか。