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“奇人”ビエルサ「その血が必要なのです!」、グアルディオラとの“11時間の議論”
text by
赤石晋一郎Shinichiro Akaishi
photograph byGetty Images
posted2020/09/11 11:45
昨季、リーズの指揮を取りチャンピオンシップで優勝を果たしたビエルサ(中央)。今季はプレミアリーグでペップ率いるマンチェスター・シティとも戦う。
5レーン理論の原型にも見える練習メソッド
近年、ペップがバイエルン・ミュンヘン監督時代に導入した「5レーン理論」という言葉が流行した。5レーン理論とはピッチを縦に5分割したラインを引き、選手のポジション取りのルールを意識させながら練習させるメソッドで、ポゼッションサッカーの最先端戦術と解説されている。
だがビエルサは2002年には既に5レーン理論の原型にも見える練習メソッドを確立していたという。
日韓ワールドカップ以降、荒川とビエルサは長きに渡って親交を持つことになる。荒川はアルゼンチン代表やチリ代表、リーズにもスタッフとしてビエルサから幾度となく招聘され、彼の戦術を学び実践する機会を多く得てきた。
https://www.lanacion.com.ar/deportes/rugby/los-pumas-casa-embruJada-fantasmas-marcelo-bielsa-nid2287820
(ビエルサと荒川がJビレッジ周辺をジョギングする様子が掲載された「ラ・ナシオン」紙のウェブサイト)
バティストゥータからのアドバイス
ペップは現役時代の晩年、ローマの元チームメイトだったバティストゥータから「選手引退後、もしコーチになりたいのであれば、一度ビエルサから話を聞いておいたほうがいい」とアドバイスを受けた。
“バティゴール”と呼ばれ、豪快なプレースタイルで知られる元アルゼンチン代表のガブリエル・バティストゥータは、ビエルサが長く指揮を執ったニューウェルス・オールドボーイズ出身で、2002年の日韓ワールドカップでもアルゼンチン代表を率いたビエルサの指導を受けている。ペップはこの言葉に従い、友人のダビド・トロエバス(スペイン人映画監督)とアルゼンチンを訪れることを決める。
ビエルサは2004年のアテネ五輪でアルゼンチン代表を優勝に導いたあと、辞任し浪人生活を送っていた。当時、ビエルサはマキシモパスの義父が所有する別荘に籠り、戦術研究に勤しむ日々を送っていた。
マキシモパスはビエルサの自宅があるロサリオから約78キロ離れた、パンパ草原に位置する人口はわずか4000人ほどの田舎町だ。
余談だがプロフェッサー(教授)・求道者とも呼ばれるビエルサは、流行のラップトップ型(戦術分析をパソコンで行う)監督ではない。マックを持っているものの受信専用でしかなく、専らデータ分析を行うのは「紙」と「頭脳」のみ。テキストを打つことはおろかEメールすら利用しない。
このデジタル時代に、彼と連絡を取る方法は電話か、ワッツアップ(メッセージアプリ)のみ。ワッツアップでも通話機能を利用するか音声ファイルを送るだけで、彼の発信は常に音声のみなのだ。