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“奇人”ビエルサ「その血が必要なのです!」、グアルディオラとの“11時間の議論”
text by
赤石晋一郎Shinichiro Akaishi
photograph byGetty Images
posted2020/09/11 11:45
昨季、リーズの指揮を取りチャンピオンシップで優勝を果たしたビエルサ(中央)。今季はプレミアリーグでペップ率いるマンチェスター・シティとも戦う。
ペップの監督室にはビエルサの言葉が飾られている
ビエルサを傑出した指導者たらしめるエピソードは枚挙に暇がない。前述のペップとの対話も、フットボール界では“一夜の伝説”として語られている。
ペップは尊敬する指導者の1人として常にビエルサの名前を上げる。マンチェスター・シティ・クラブハウスの監督室には、ペップが感銘を受けたというビエルサの言葉が飾られている。
〈自分の人生において、進歩を遂げた瞬間は失敗と密接に結びついており、後退したと感じた瞬間は成功と密につながっている──〉
常に研究と革新を怠らないビエルサらしい哲学的な言葉である。だが2人の関係についてビエルサは「どちらが師でも、教え子でもない」と語り、常にペップに敬意を払う。エル・ロコは常にピュアで、自らに対してとことん謙虚な姿勢を持ち続ける人物なのだ。
9月12日に開幕する2020-2021シーズンのイングランド・プレミアリーグは、さながら監督の“パリコレクション”のようでもある。
マンチェスター・シティのグアルディオラに、昨年のディフェンディングチャンピオンリバプールを率いるユルゲン・クロップ、エバートンのアンチェロッテイに、トッテナムのモウリーニョといった、最先端であり最新鋭の戦術を使いこなす世界的な名将がずらりと顔を揃える。
そして、そこに新たに参画するのが、古豪リーズ・ユナイテッドを率いてチャンピオンシップ(イングランド2部リーグ)で優勝を果たし、プレミア昇格を決めた“エル・ロコ”なのである。
日本人で唯一のビエルサの「門下生」が戦術解説
当連載では名勝負連発が期待される、ビエルサのプレミアリーグでの闘いぶりを、彼のヒューマンヒストリーを紹介しながら追っていく予定だ。
ビエルサ・サッカーの戦術解説はサッカー指導者の荒川友康(アラカワ・ユウコウ)に担当してもらう。荒川はアルゼンチンサッカー協会認定のS級ライセンスを持つ南米通であると同時に、日本人で唯一のビエルサの教えを受けている「門下生」でもある。
荒川とビエルサの出会いは2002年の日韓ワールドカップまで遡る。
アルゼンチン代表チームのリエゾンとしてチームに同行していた荒川は、ある日ビエルサから「あなたは、ジョギング好きですか?」と聞かれる。「はい」と答えた荒川は、その日から毎日、ビエルサとの30分のジョギングに付き合うことになった。
「あの建物は何ですか?」
「パールハーバー(真珠湾攻撃)について、あなたはどう思いますか?」
「あなたはアルゼンチンで何をしていたのですか?」
アルゼンチン代表が合宿を張っていた福島県のJヴィレッジ周辺をハイペースで走りながら、ビエルサは荒川に次々と質問を投げかけた。