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“奇人”ビエルサ「その血が必要なのです!」、グアルディオラとの“11時間の議論” 

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赤石晋一郎

赤石晋一郎Shinichiro Akaishi

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posted2020/09/11 11:45

“奇人”ビエルサ「その血が必要なのです!」、グアルディオラとの“11時間の議論”<Number Web> photograph by Getty Images

昨季、リーズの指揮を取りチャンピオンシップで優勝を果たしたビエルサ(中央)。今季はプレミアリーグでペップ率いるマンチェスター・シティとも戦う。

警察官に不当に賄賂を要求された

 ペップとの対話でも見られた矢のような質問攻めは、ビエルサ独特の人間観察術のようだ。

 荒川が振り返る。

「私はまるで尋問を受けているような気分でした。ビエルサは決して曖昧な答えを許さないのです。私が答えに窮していると『知らないことは、知らないといいなさい』と言われました」

 荒川はビエルサとの日々のジョギングの中で、自分のアルゼンチンでの経験を洗いざらい話すことを余儀なくされる。

 強盗に遭った話、警察官に路上で職質をされ、不当に賄賂を要求された出来事、旅行会社で働いている時に給与未払いを受けたことなどを話した。

 更にS級ライセンスを取得する際に私立の監督養成学校に入学したが、当時、20代だった荒川は年齢が若すぎるという理由で聴講生扱いとされた。そこで改めて荒川はアルゼンチンの高卒認定の資格を取る勉強をし、大学に相当する国立スポーツセンターへ再入学し、苦労を重ねS級ライセンスを取得した。

「今では笑い話でしかないのですが、私がアルゼンチンで経験した数々のトラブル話について、マルセロは真摯に耳を傾けてくれて、我が事のように怒ってくれました。更にアルゼンチンのS級ライセンスの話についてはシリアスな表情で聞いてくれました」

「同じアルゼンチン人として本当に申し訳ない」

 荒川の話を聞き終えると、ビエルサはこう謝罪したという。

「同じアルゼンチン人として本当に申し訳ない。俺はアルゼンチン人として、ユウコウに許しを請わなければいけない」

 だが、これだけでは終わらなかった。

 翌日、荒川は監督室に呼ばれた。ビエルサはおもむろに紙にスラスラとシステムを書き出すと、戦術の解説を始めた。ビエルサによる1対1のプライベートレッスンである。荒川が指導者を志していることを知ったビエルサは、自らの知識を荒川に授けようとした。エル・ロコは謝罪の気持ちを言葉だけで済ますことを良しとしなかった。

「マルセロの話は、自分のサッカー観や捉え方を根本から覆されるものばかりでした。目から鱗が落ちるとは、このことかと思いました。例えば練習メソッド1つを見ても唯一無二のものばかりなのです。

 グランドをテープで区切ってエリア分けをして、ポジションやマークの受け渡しの練習を2002年からビエルサはやっていました。広いピッチのなかで空間認知するために、テープで仕切り、選手にポジションを認識させるという意味合いがあったと思います。しかも、テープでの区切り方についても、何種類もパターンがあってアシスタントコーチ達も整理しきれないほど豊富にあるのです」

【次ページ】 5レーン理論の原型にも見える練習メソッド

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