“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
突然呼ばれた面談室「何で俺が?」。
J1川崎が見込んだ静学・田邉秀斗。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/08/13 15:30
昨年の選手権では先輩・松村優太(鹿島)をサポートし、24年ぶりの優勝に貢献。J1川崎は当時から田邉を注目していたという。
課題を発見する力と修正力。
田邉は今、さらにサイドバックとして成長の歩みを進めている。
「右サイドバックの時は利き足(右足)でトラップをして、そのまま同サイドの味方にパスを出せる利点がありますが、デメリットは左足にボールが入ってしまった時に、体が後ろ向きになってしまい、プレーのスタートが遅れてしまう。
逆に左サイドバックの時は、左足でトラップすることが多いので、その時は右足を使って縦にも中にも仕掛けられる。でも、デメリットは左で持った時に中(央への進路)を切られてしまうと、左足でフィードやクロスをしないといけないので、右と比べると質が下がる。
自分の中で左右のメリットとデメリットを整理すると、ボールを持ったときに左足の精度と身体の使い方が課題だと明確になりました。なので、今は左足でのボールタッチ、ターン、クロス、パスの回数を意図的に増やして取り組んでいます」
7月23日の尚志高(福島)との試合を取材した時、左サイドバックとしてプレーする彼の左足のキックのパワーと精度、トラップの技術は確実に上がっていた。こうした課題を発見する力とその修正力、そして向上心も彼の大きな魅力である。それを見抜いたのが静学と川崎だった。
「いまはまだプロとしては足らないところだらけですが、マイナスのところをゼロ以上にして、プラスは今まで以上の武器にして、苦手なところさえも自分の武器にするようにしたいです」。
頼りになる静学OBの存在。
川崎のサイドバックと言えば、ハイレベルな技術と戦術眼が求められる。ビルドアップ、ポゼッションからラストパスにかけて何でもこなせる選手でないと成立しない。だからこそ、サイドバックとしての成長にはもってこいの環境だろう。さらに川崎は彼を左右のサイドバックとしてだけでなく、CBとしても計算しており、「サッカー選手としてDFラインをすべてできることは重宝される存在になれるチャンスだと思っています」と田邉自身も前向きに捉えている。
そして、何より川崎には大島僚太、長谷川竜也、旗手怜央という、静学の偉大なる先輩が3人もいる。
「本当に心強いです。3人のように活躍をしないといけないプレッシャーもありますが、肩を並べる選手になりたいですし、プロに入ったら相談に乗ってもらいたいです。
僕がBチームにいたとき、順天堂大時代の旗手選手が教育実習で来校されていて、一緒にプレーしたことがあります。初めてプロのレベルに近い選手とプレーして、『桁違いに速い』と感じました。すべての質が高く、こういう人がプロになるんだなと。2週間一緒にいましたが、当時は恐れ多くて喋れなかった。でも、その人とチームメイトになるのは不思議で、1年生の時の自分に『お前、後にチームメイトになるんだぞ』と教えてあげたいですね」
新型コロナウイルス感染症拡大により、仮契約を結ぶまでに時間がかかったが、ようやく正式発表の日を迎えることができた。
「静学とフロンターレに声をかけていただいたことで、僕の人生が大きく変わった。静学は僕のサッカー人生の分岐点でもあるので、残りの時間で静学の名前を全国でもっと広められるようにしたい。
また、これから『選手権優勝メンバー』というよりも、『フロンターレに入る選手』として周りから厳しい目で見られると思うので、内面から鍛えて、磨いて、卒業するまでに人としてしっかりと大人になった状態で(プロ生活に)臨みたいし、『やっぱり静学の選手はさすがだな』と思われる選手になりたい。それが僕にとっての静学への恩返しだと思っています」
人生を変えたのは彼のまっすぐな向上心とチャレンジ精神があったからこそ。実直に歩みを進める者にチャンスの女神は必ず微笑みかける。それはこれからも変わらない。