“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
Jを目指す高校生、大学生の就職活動。
明暗を分けた「貴重なアピールの場」。
posted2020/08/06 07:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
Takahito Ando
新型コロナウイルス感染症拡大は、高校・大学サッカー界にも大きな影を落としている。
特に進路を決める時期に差し掛かった学生にとっては、最後のアピールの場となる公式戦を奪われているのが現状だ。サッカーを続ける選択肢を持っていても、JリーグやJFLなどのクラブ、大学への練習参加がままならず、不安な毎日を過ごす学生が数多くいる。
8月3日、そんな学生たちを救うべく「コネクティング・サポート・セレクションin九州(株式会社リトルコンシェル主催)」が熊本県の大津町運動公園球技場において行われた。これはJクラブ、JFLクラブ、大学サッカーのスカウトが集結し、高校生と大学生が進路を切り開くためのセレクション。いわば、金の卵たちの合同トライアウトだ。
九州エリアのほか、今後は中国、関西、東海の計4地域でそれぞれ2日間に渡って実施。各会場で大学、高校の部に分かれ、20分ゲームを4本。1本ごとにメンバーが入れ替わるミックスチームで行われる予定だ(東海エリアは高校の部が中止、大学の部が延期)。筆者も九州のトライアウトに同行したが、そこでは選手たちのさまざまな想い、覚悟、そしてトライアウトの難しさを目の当たりにすることができた。
今回のコラムでは、異なった背景で臨んだ2人の選手にフォーカスを当て、彼らの胸の内、そしてトライアウトの意義に迫った。
プロ入りを目指す大学4年生。
大学生の部で目に留まったのは、鹿屋体育大のFW伊藤龍生だ。プロ入りを目標に掲げる大学4年生である。
中学時代はヴィッセル神戸U-15、高校時代は名門・米子北高(鳥取)でプレー。高さと強さを駆使したポストプレーと裏への抜け出しを得意とする大型ストライカーは、高校サッカー選手権で活躍した後、九州の強豪大学に進学していた。
大学では1年時から出場機会を掴むなど順調なスタートを切ったが、次第に急成長する同期や後輩たちの影に隠れ、4年生になったいまもプロからのオファーはゼロだった。
「最初は『どこからかは声がかかるだろう』と思っていました。でも、だんだんベンチに回ることも増えて、さらに同い年の藤本一輝(FW・大分トリニータ内定)、1学年下の根本凌(FW・湘南ベルマーレ内定)がJクラブの練習参加に呼ばれている現状を見ていた。一輝はすでに大分でJデビューをしているし、凌も3月の段階で(飛び級での)湘南入りが決まり、他の人の結果を見て涙が出たのは初めてだった。2人に負けていると認めたくはなかったけど、痛感させられました」
鹿児島県にもコロナ感染者が出たことで、大学の活動はストップ。さらにアピールの場となる総理大臣杯は中止、九州大学リーグも開幕が9月に大きくずれ込むなど、重要な時期に自分を表現する場所を失っていた。
「2~3週間前に今回のセレクションがあると聞いて、『ここで絶対にアピールする』と参加を決めました。右足の太ももに軽度の肉離れを起こしていて、踏ん張れない部分もあったけど、このチャンスを逃したくなかったので、治療しながら準備してきました」