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薄幸の点取り屋ベンゼマの美学。
「ナンバーワンでなくてもいい」
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2020/07/29 11:40
「BBCトリオ」の中で、最も長くマドリーに貢献するのがベンゼマだと見抜いていたのはジダン監督くらいだろう。
ジダン監督との出会いも僥倖だった。
同じアルジェリアにルーツを持ち、強い信頼関係で結ばれたジネディーヌ・ジダン監督との出会いも、ベンゼマにとって僥倖だった。
昨シーズン途中、第1次政権時代にともにCL3連覇の偉業を達成した恩師が、わずか9カ月の空白期間を経て再びマドリーのベンチに戻ると、そこからゴールラッシュを披露。前半戦の躓きを取り返し、最終的には3年ぶりの20ゴール超えである。不要論も囁かれていたベンゼマは、ジダンの下で当然のように“非売品”となった。
そして迎えた2019-20シーズン。コロナ禍に揺れたラ・リーガを制したのは、中断期間明けから10連勝と怒涛のラストスパートを見せたジダンのマドリーだった。
3シーズンぶりにスペイン王者に返り咲いたチームからMVPを選ぶとすれば、個人的には守護神のティボウ・クルトワでも、攻守両面で絶大な存在感を放ったセルヒオ・ラモスでも、替えの利かないアンカーのカゼミーロでもなく、ベンゼマを推したい。
芸術的ヒールパスこそが彼らしい。
開幕からハイペースでゴールを量産し、冬に一時当たりが止まったものの、再開後にアクセルを踏み直し、得点ランキング2位の21ゴール(8アシスト)。29節バレンシア戦の2得点など、相変わらずハイレベルな一撃が多かったが、それでもハイライトフィルムはゴールシーンではない。
32節、アウェーでのエスパニョール戦で、カゼミーロの決勝点を演出した芸術的なヒールパス。ジダン監督が「今シーズンのリーガを代表するプレー」と絶賛し、2位バルサに勝点2差をつけたあのアシストは、いかにもベンゼマらしかった。
さらに、パスコースを限定する献身的なプレッシングや、相手に挟み込まれながらも抜群のボディーバランスでボールをキープし、時間とスペースを生み出すポストワークなど、その貢献は実に幅広かった。
32歳とベテランの域に入ったが、円熟味というより、むしろ凄みを増している印象だ。