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薄幸の点取り屋ベンゼマの美学。
「ナンバーワンでなくてもいい」 

text by

吉田治良

吉田治良Jiro Yoshida

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photograph byGetty Images

posted2020/07/29 11:40

薄幸の点取り屋ベンゼマの美学。「ナンバーワンでなくてもいい」<Number Web> photograph by Getty Images

「BBCトリオ」の中で、最も長くマドリーに貢献するのがベンゼマだと見抜いていたのはジダン監督くらいだろう。

万能型なのに主役になり切れない。

 その大柄な体躯にもかかわらず、柔らかな身のこなしと抜群のスピードを備え、MFのような高度なテクニックを駆使して組み立ての局面で存在感を示しながら、難易度の高いシュート──思わず唸ってしまうようなゴラッソが少なくない──も決める。

 バイエルン・ミュンヘンのロベルト・レバンドフスキやバルセロナのルイス・スアレス、そしてトッテナムのハリー・ケインらと並ぶ、当代随一の万能型ストライカーと言っていい。

 ただ、他の万能型と違って「主役」になり切れないのは、長くC・ロナウドという怪物とともにプレーしてきた環境面の問題に加え、その内向的で、他人の目を気にしないどこかのんびりとした性格も影響しているだろう。

 試合中も感情を剥き出しにすることは滅多になく、ジャンプしながら小さく拳を突き上げるゴールパフォーマンスにも派手さはない。

批判を平然と受け流す鷹揚さ。

 しかし一方では、そうしたキャラクターだからこそ、実に10年以上にもわたってマドリーの主力を務め上げられたとも言える。

 わずか5ゴールに終わり、連続2桁得点記録が7年で途切れた2017-18シーズンには、マドリディスタの激しいバッシングにさらされた。そしてC・ロナウドが退団し、ポイントゲッターとして大きな重責を担った昨シーズンは、4節からの12試合で1ゴールと沈黙。主役の座に就くどころか、一時は不要論まで飛び交った。

 だが、ベンゼマは批判の矢を無理やり飲み込むこともしなければ、それをバネに戦うような反骨心に溢れたタイプでもない。平然と受け流す鷹揚さこそが、彼の強みなのだ。

 アンチェロッティは言う。

「ナンバーワンになりたいとは思わない。それがカリムの良さであり、だからこそ彼は、いつだって自分のプレーに満足できるのだ」

【次ページ】 ジダン監督との出会いも僥倖だった。

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