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薄幸の点取り屋ベンゼマの美学。
「ナンバーワンでなくてもいい」
posted2020/07/29 11:40
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph by
Getty Images
薄幸のストライカーである。
素晴らしい才能の持ち主であることは、誰もが知っている。ところが、なぜか主役の座が巡ってこない。スポットライトを浴びかけると、いつも見えざる力に邪魔をされるように、日陰へと追いやられるのだ。
2000年代にリーグ・アン7連覇を成し遂げた黄金期のリヨンで頭角を現したカリム・ベンゼマが、激しい争奪戦の末にレアル・マドリーに引き抜かれるのは'09年の夏、彼が21歳の時だった。
もっとも、2007-08シーズンに20歳でリーグ・アン得点王に輝いた逸材も、“白い巨人”にあっては補強の目玉ではなかった。
カカ、ロナウドが目玉補強だった。
この'09年の6月に会長職に返り咲いたフロレンティーノ・ペレスは、第1次政権時代と同じくビッグネームを買い集めることで、強いマドリーを取り戻すと公言。いわゆる「第2次ガラクティコス(銀河系軍団)」を築き上げるべく、補強費として2億6740万ユーロ、およそ320億円という巨額を投じたのだ。
そこでメディアの話題をさらったのは、マンチェスター・ユナイテッドから9400万ユーロ(約129億円)で強奪したクリスティアーノ・ロナウドであり、ミランから6500万ユーロ(約88億9000万円)で獲得したカカだった。
本拠地サンティアゴ・ベルナベウで行われた彼らの入団会見には、それぞれ10万人、5万人というサポーターが大挙して押し寄せたが、移籍金3500万ユーロ(約47億8000万円)のベンゼマは当時、まだ期待の若手の1人に過ぎず、それほど大きな注目を集めることもなかった。
こうして迎えた1年目の2009-10シーズンは、なかなかスペインの水に馴染めず、またゴンサロ・イグアインという強力なライバルの存在にも出場機会を阻まれ、27試合で8ゴールに終わる。