フランス・フットボール通信BACK NUMBER
サッカー界で最強の影響力を持つ男!?
アル・ケライフィが語る石油王の思考法。
text by
パスカル・フェレPascal Ferre
photograph byFranck Seguin/L'Equipe
posted2020/07/26 08:00
リーグアンで絶対的な強さを誇るPSGのカリスマオーナー、アル・ケライフィ。石油王とひと言でくくれない大実業家である。
「感じるのは責任の大きさで、力の大きさではない」
――2011年に(PSGの会長に就任して)サッカー界に登場したときよりも今の方が、あなたの影響力は増していると思いますか?
「影響力は考えたことがないが、人々から敬意を得られるようには努めている。
そこに至るには、多くの人たちの何年にもわたる努力と明確なビジョンの助けが必要だ。私はここまでやってきたことには満足している。しかしまだ冒険は始まったばかりで、道のりは遠い。
われわれのビジョンはいちサッカークラブに限るものではなく、パリという街全体、フランスサッカーとその周囲を取り巻く人々の多様性まで考慮に入れたビジョンだ。だからこそ常に合理的な投資を模索している。選手の獲得や将来のタレントの育成、インフラの改善や整備、女子サッカー、ハンドボール、eスポーツ……、もちろんPSG基金(註:2000年に創設され、病気や恵まれない子供たち、難しい状況にある若者たちやコミュニティの救済を目的とする)は言うに及ばずだ」
――これほどの力と手段を手にしたら、ほとんど全能であるかのような気になりませんか?
「それはまったくない。感じるのは責任の大きさで、力の大きさではない。
クラブやファン、市のプロジェクトに対する責任と、PSGを取り巻くすべてのコミュニティに対する責任だ。権力のための権力や、強迫観念に囚われた真理の探究は虚栄心でしかないことを私はよく理解している。もちろん責任に対しては、外部から分析・判断されしばしば批判も受ける。そこには何の問題もない。メディアの世界では、そうした批判は当然であるからだ。FF誌で1位に選ばれたことで、さらなる批判に晒されないことを願っている」
「天性のオーラは、他に代え難い貴重な切り札だった」
――PSGに限らずあなたがこれまで見てきたなかで、強い責任感を持ってチームに継続的な影響を与えてきた点で最も印象深い選手は誰でしたか?
「ひとりを選ぶのは難しいが……ただ、PSGの野心的なプロジェクトのスタート以降、ともに戦った選手のなかではズラタン・イブラヒモビッチが特筆に値する。
そのキャラクターとリーダーシップ、カリスマ性、ものごとを推進する能力……在籍した4年間で彼はチームを大きく進化させた。それもピッチの上だけに限らず、日常的なディテールの数々においてもそうだった。どんなときでも彼は信頼できたし、どんな状況にも決然と立ち向かい決して退くことはなかった。
またデビッド・ベッカムの名も挙げたい。
PSGで過ごしたのはほんの短期間だったが、彼もまたクラブを変える力を持っていた。練習での態度やひとつひとつのディテールへのこだわり、成功への意志の強さ、チームへの献身度、天性のオーラは、他に代え難い貴重な切り札だった。そしてその武器を、彼は新たな活動においても発揮している。本来なら近寄りがたい世界的なスターであるにもかかわらず、デビッドはいつも気さくだ。プロのアスリートを目指す少年少女の最良のモデルだ」