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モウリーニョ独占インタビュー。
「ジョブズと聖書と守るべきもの」
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byTamon Matsuzono,Takuya Sugiyama(in the article)
posted2020/06/30 10:00
現在はトッテナムの監督を務めるモウリーニョ。インタビューは2度目のチェルシー監督就任時に行われた。
規律、友情、家族愛、忠誠。
――ポルトガルの経済危機について、自らの言葉で世界に訴えかけたこともありました。
「いま、私は経済危機よりももっと別のことを心配している。経済面や金銭面というものは、結果的にどうにか対策が見つかるものだ。しかし、今、世界ではそれよりももっと大事なものが失われつつある。それが人間の良心であり道徳だ。
昔、世界にはそれがあった。家族の意味や人との繋がり、宗教もそうだ。私はカトリックの熱心な信者ではないが、信仰が与えてくれるものは多い。人間としてとるべき態度や規律、友情、家族愛、忠誠など、我々の根幹となるものを教えてくれる。今日の世界はそれらを失いつつある。
今は仕事をするのも、父親になるのも、子供であることすら難しい時代だ。この点では世界は悪い方向に進んでいる。直視すべき問題は、経済危機よりも人間の深いところにある」
私は絶対に自分の子供には許さない。
――TwitterやFacebook上にはあらゆる言葉が氾濫しています。新時代のテクノロジーもあなたが言う道徳の欠如に影響している?
「テクノロジーにはポジティブな面とネガティブな面がある。家の中で家族同士がメールで連絡を取り合っているところもあるそうだ。息子が自分の部屋から「お父さんコーラをとって!』とツイートしたり、メールを送ったりする。10mの距離を動くことなく、言葉を直接伝えることなく、ネット上ですまそうとするわけだ。
私は絶対に自分の子供には許さないけれどね。私が20歳の頃は携帯電話もメールも存在しなかった。それでもどこで何時に友人と会えるかを分かっていたし、家族も私が帰ってくる時間を知っていた。
FacebookやTwitterは素晴らしいものだが、それはいじめにも繋がる。SNS上で悪口を言われる子供だっているわけだ。もちろん貧困撲滅など素晴らしいキャンペーンに利用できるのも確か。技術を正しい方向に使えるかどうか。すべては我々にかかっている」