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モウリーニョ独占インタビュー。
「ジョブズと聖書と守るべきもの」
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byTamon Matsuzono,Takuya Sugiyama(in the article)
posted2020/06/30 10:00
現在はトッテナムの監督を務めるモウリーニョ。インタビューは2度目のチェルシー監督就任時に行われた。
若くしてサッカーの内部を知ることができた。
――モウリーニョを嫌う人は多い。一方でこれまでに率いた選手の多くは、問題児といわれる選手であれ、あなたへの忠誠を誓っています。イブラヒモビッチ、マテラッツィにエトーら扱いにくい個性に対して、どんな言葉をかけて心を掴んでいるのでしょう?
「いつか父が私に教えてくれたことがある。『選手というものは特別な生き物であり、特殊な種なんだ』と。父親はサッカー選手だったから、私は若くしてサッカーの内部を知ることができた。選手という生き物について。ロッカールームの中で何が起こっているのか。若くして知ったことで、私は落ち着いて物事に対応できるようになった。
選手はサッカー選手である前にひとりの人間だ。私は監督としての都合をまったく考えず、正直に思ったことを彼らの目を見て伝える。どんな選手に対してもだ。そして何があっても選手を守る。彼らは守られるべき存在だから。
私は、その選手の最高の能力を出してあげるために全力を尽くすだろう。私の下でプレーしたことで、少しでも優れた選手にしてあげたい。私と出会う前よりも、少しでも年俸を上げてあげられるように、少しでも契約の条件が良くなるように。
言葉だけじゃなく、そんな私の思いや行動に選手が気づいているのかもしれない。家庭で子供のためにつくすのと同じように、クラブでは監督は自分のためじゃなく、選手のために働くべきなんだ」
監督と選手は友人になることはできる。
――スポーツにおける永遠のテーマに選手と監督は友人になれるかというものがあります。
「私は友人になれると思っている。もちろん、監督としては、自分の友好関係を考えた決断は一切しない。友情とは関係なく、私は決めるべきときには決断を下すから。
たとえばフランク・ランパードだ。彼は友人だが、今夏、私は率直に言った。『お前ももう35歳だ。コンディションが最高だったらプレーさせるが、そうでなければベンチだ』と。
彼は『僕らは知り合ってもう9年になる。もちろんそう言うのは分かってましたよ』と言ってくれた。互いを深く理解し合えていれば、監督と選手は友人になることはできる」
――あなたを傲慢と見る人は多いが、近くにいる人は全く違うことを言います。両極端の意見を聞いていると、世界にはふたりのモウリーニョがいるかのように思えてきます。
「ジョゼ・モウリーニョはひとりしかいない。問題は本当の私を知る人と、何も知らない人の2種類の人間がいるということだ。
誰もが私について何かを語りたがる。例えば町の本屋に行ったとしよう。そこには私に関する本がたくさん並んでいる。大半は一度も話したことのないようなどこかの誰かが書いたようなものばかりだ。そこにある言葉に、いったい何の意味がある? 本当のモウリーニョはこの世界にひとりしかいない」