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モウリーニョ独占インタビュー。
「ジョブズと聖書と守るべきもの」
posted2020/06/30 10:00
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph by
Tamon Matsuzono,Takuya Sugiyama(in the article)
外はいかにも英国的な曇り空で、降り始めた憂鬱な小雨が練習場の芝を濡らしている。練習を終えたチェルシーの選手が、ひとりひとりピッチを後にしていく。
クラブハウスの一角、薄暗い部屋でジョゼ・モウリーニョを待っていた。
1対1で話をするのは久しぶりのことだ。1度目は南アフリカワールドカップ前のことだから、いまから3年半前になる。
インテルを率いていた彼が3冠を達成する、ちょうど1カ月前のことだ。その後、レアル・マドリーでは久々のタイトルをもたらしファンに愛され、一部の人々にひどく嫌われ(その多くは記者とバルセロナファンだった)、3年後にスペインを後にした。
さよならもまた会おうもない、とても静かな去り方だった。
今回のインタビューでは、ピッチ上のサッカーについてはほとんど話していない。記者会見である程度知ることのできることよりも、じっくりと話したいことがあったからだ。
それが彼の言葉についてだ。
「人はモウリーニョを好きになるか、嫌いになるか、そのどちらかだ」
いつか誰かが言った。
モウリーニョが放つ言葉は瞬時にして世界中に広まる。それらは常に刺激的で、退屈することがない。言葉というテーマの下で、モウリーニョは何を語ってくれるのか――。
やがて練習を終えたモウリーニョがゆっくりと部屋に入ってくる。しっかりと交わす握手の強さは、今も変わっていなかった。
ストレートに、包み隠さずに思ったことを言うだけ。
――3年半前ローマでインタビューをした時、何に一番刺激を受けたかというと、ジョゼ・モウリーニョという人間が発するひとつひとつの言葉の力と影響力でした。そこには他の監督にはない強さや信念が秘められていた。
例えば有名な「スペシャルワン」という言葉は、ここ英国ではサッカーを知らない女性や子供ですら知っています。あなたの言葉についてよく議論されるのが、それらが周到に準備されたものなのか否か、ということです。
「私は何かの言葉を口にする時、事前に準備することなどない。ストレートに、包み隠さずに思ったことを言うだけだ。だから時に刺激的、あるいは傲慢に捉えられるのだが。
『スペシャルワン』という言葉だって準備して言ったわけじゃない。私の心がそう感じていただけなんだ。
'04年当時若い監督というのがサッカー界で評価を受けるのはとても難しいことだった。ビッグクラブを率いるのは50から60歳の監督ばかり。だから私はあの場所にたどり着くまでに様々な苦労と努力をしてきた。ポルトという中小クラブでUEFAカップとCLに優勝してね。
それにもかかわらず、一部の人はこう聞いてきた。あなたにチェルシーを率いる力はあるのか、レベルの高いリーグで本当にやれるのか、と。
だから言ったんだ。おいおい、私はポルトで欧州王者になったんだ。どうやったら疑問を持てるんだ。私は特別な監督なんだぞ、と」