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モウリーニョ独占インタビュー。
「ジョブズと聖書と守るべきもの」
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byTamon Matsuzono,Takuya Sugiyama(in the article)
posted2020/06/30 10:00
現在はトッテナムの監督を務めるモウリーニョ。インタビューは2度目のチェルシー監督就任時に行われた。
モウリーニョは言葉を発することをやめた。
彼のレアル・マドリーでの仕事を難しくした理由は、メディアとの確執だった。
ロッカールーム内にいなければ分からないことが、翌日の新聞に載ったこともある。選手の一部がメディアに情報を流していたのだ。
モウリーニョと選手の間にできた溝。メディアはそれを面白がるかのように傷口を膨らませ、選手の立場に立ち世論を操作した。
やがてモウリーニョは記者会見を助監督のアイトール・カランカに任せ自らは口を閉ざした。モウリーニョのいない会見は、嵐が去った後のビルバオ湾みたいにひっそりと静かだった。彼は言葉を発することをやめたのだ。
――現在のジャーナリズムについての率直な考えを聞かせてください。
「そこにあるのは激しい競争の世界だ。生き残るためには他とは違うことをやらなければならない。もはや情報はコントロールできない。
今日では情報は瞬時に世界に発信される。何かを知るために、翌日の朝刊を待つ時代ではないんだ。スマートフォンのボタンを押せば、情報はすぐにネット上に掲載される。
重要なのは情報の受け取り手だ。ただ私は、もうメディアの記事に振り回されることはなくなった。もはや否定すらしない」
グアルディオラに漂っている空気は哲学者のそれ。
――モウリーニョにメディアは必要ないのでしょうか? 何らかのメッセージを発する場として利用しているという声もあります。
「私にはメディアは必要ない。しかし、サッカーにはメディアが必要だ。スポーツの興奮を世界に伝えるメディアの貢献で、サッカーは世界的なスポーツに発展した。
魅力的だが認知度の低さにより規模がサッカーの4分の1に満たないスポーツもある。ジャーナリズム自体はなくてはならないものだと思う」
モウリーニョと向かい合って話をしている最中、彼はひとときもこちらから目を離すことはなかった。
集中が途切れることも、時計を確認することも、都合のいい方向に話を持っていくこともない。視線は真っすぐにこちらへと伸びていて、発せられる言葉は、何も介さずにストレートに飛び込んでくる。
世界には実に様々な監督がいて、彼らにはそれぞれの色がある。
ビセンテ・デルボスケにはすべてを包むような包容力があった。ルイス・アラゴネスの人間臭さは、初めて会うものさえ虜にした。ジョゼップ・グアルディオラに漂っている空気は、(イブラヒモビッチがいうように)まさに哲学者のそれだった。
ジョゼ・モウリーニョに感じたのは、誰とも異なる真っすぐなものだ。リーダーとしてのモウリーニョについていく選手の感情に、少しだけ触れられた気がした。