甲子園の風BACK NUMBER
『栄冠は君に輝く』『六甲おろし』も。
スポーツ音楽王・古関裕而、傑作十選。
text by
梅津有希子Yukiko Umetsu
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/06/23 07:00
甲子園という高校野球の聖地で聴く『栄冠は君に輝く』は格別。来年こそは……。
閉店音楽は『蛍の光』ではなく『別れのワルツ』。
『蛍の光』といえば、デパートなどの閉店BGMとしてもよく使われているが、改めて聴いてみると『蛍の光』ではなく、『別れのワルツ』と知ったときの衝撃たるや……。「まさかこれも古関作品だったとは……!」と大変驚いた。
『蛍の光』と『別れのワルツ』は似ているが、完全に拍子が違う。4拍子の前者に対し、後者はまさに「ワルツ」なので「1、2、3」の3拍子。ワルツとは、3拍子の円舞曲のことで、古関アレンジの同曲は、柔らかなクラリネットの響きや軽快なマリンバ、品のあるバイオリン使いなど優美なワルツそのもの。曲に合わせて自分で指揮をしてみると、完全に違いがわかると思う。
9位 『若鷲の歌』
多数の軍歌を作ってきた古関が、1943年、海軍航空隊の予科練習生を主題とした映画の主題歌として作った楽曲。自伝『鐘よ鳴り響け』(集英社文庫)によると、同曲を作るために古関も土浦航空隊に1日入団し、起床から就寝までを見学。1日入団の経験を生かし、まずは長調の曲が完成したものの、「常磐線の車中、曲に対する不備が頭から離れない」という古関は、利根川を渡り茨城県に入った頃、「ある短音階のメロディー」が浮かび、長調と短調の2パターンを用意。航空隊の生徒たちに歌って聴かせたところ、教官のほとんどが長調を支持したのに対し、生徒のほぼ全員が短調を支持し、同曲が完成したという経緯が書かれている。
このエピソードを読んで、わたしはすぐに高校野球の応援曲を思い浮かべた。
『サウスポー』や『アフリカン・シンフォニー』、『SEE OFF』『SHOW TIME』など、高校野球応援でも人気の曲は短調が多い。「男子の士気を鼓舞する曲調というのは、軍歌から現代の応援曲にいたるまで、何か共通のセオリーがあるのではないか」と常々感じていたのだが、古関のこのエピソードを読み、非常に腑に落ちるものがあった。
10位 『若きこころ』(福島商業高校新校歌)
古関の母校である福島商業高校創立60周年を記念し、1957年に作られた新校歌。『栄冠は君に輝く』を彷彿とさせるような爽やかなメロディーに、覚えやすく、かつ明るく前向きな曲調は、王道の古関サウンド。青春の舞台にふさわしい名校歌だ。
名曲揃いの古関作品の中から、極私的ベスト10を選ばせていただいたが、番外編として特別賞を記しておきたい。