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歌い継がれる『栄冠は君に輝く』
古関裕而が甲子園で感じたこと。
posted2020/06/24 07:00
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by
Kyodo News
夏になるとどこからともなく聞こえてくる旋律。つけっぱなしのラジオからあの歌が聞こえてくると、否応なしに土埃が舞うグラウンドの世界へと引きずり込まれる。
雲はわき、光あふれて、天高く空を飛ぶ白球。風をうち、大地をける若人の姿――。詩情豊かな歌詞と、シンプルかつ力強いメロディーが奏でるのは、高校球児の青春賛歌だ。
「夏の甲子園」の大会歌にして、比類なき応援ソング。この「栄冠は君に輝く」はいかにして生まれ、歌い継がれてきたのか。五線譜に残る、足跡のようにも見える音符をたどって、作曲家の故郷である福島市を訪ねた。
福島駅構内に飾られたペナントが示すように、今年(2009年)は古関裕而が誕生してちょうど100年の記念年である。市では様々なイベントが企画されているが、楽譜などの資料を常時展示している記念館が信夫山の麓にある。
ヒット曲も、無名の校歌や応援歌も。
前方に塔を配す建物は「とんがり帽子」を模したもの。これは人気ラジオドラマ「鐘の鳴る丘」の主題歌として知られる。劇作家・菊田一夫とのコンビで手がけた楽曲は数知れず、空前のヒットを飛ばした放送劇「君の名は」のテーマソングを古関の代表作のひとつと見る向きは少なくない。
その一方で、古関は数千ともいわれる無名の校歌や応援歌を遺したひとでもあった。母校福島商業高校の校歌はもとより、北は北海道、南は鹿児島に至るまで。有名どころでいえば、早稲田大学の応援歌で知られる「紺碧の空」、「大阪タイガースの歌」(六甲おろし)もまた古関が手がけた曲である。
戦後になるとさらに、東京オリンピックの開会式で奏でられた「オリンピックマーチ」などの傑作スポーツソングを次々に発表。その先駆けとして作られた曲こそ「栄冠は君に輝く」だった。