野球クロスロードBACK NUMBER
球数ではない、メカニズムこそ重要。
則本、松井も頼る楽天トレーナー。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2020/06/19 07:30
楽天でコンディショニングを担当する星洋介トレーナーは40歳。仙台育英で軟式野球を経験後、筑波大大学院でスポーツ医学を学んだ。
選手が技術的な相談ができるメリット。
上半身でいえば、ボールの回転数を高めるために、指だけのチューブトレーニングも取り入れた。小指を動かそうとすると薬指も同じ動きをしてしまうように、指によって筋肉の強弱が存在する。強度が偏ってしまうと、やがてメカニックに支障を来たし、肘の故障にも繋がってしまうのだそうだ。
これらのほか、ダッシュやシャトルラン、ウエートなど春季キャンプで集中的に行ったメニューを、シーズン中も定期的に行うことが大事なのだと星は言う。
「続けていると『前より走れてない。ジャンプできてない』とかわかるじゃないですか。そういう目で見てわかる状態と、自分が持っているエビデンス(科学的根拠)や理論を組み合わせながら、選手に提供したり、話し合ったりって感じでやっています。そこに選手がついてきてくれるのが、僕としては嬉しいことなんですよ」
知識があり、トレーニングのバリエーションも多彩。何より生真面目な星だからこそ、選手も耳を傾け、実践してくれるのだ。
普段は「フォームのこととか、話してもわからないと思うんで」と、技術的な要素に関して多くを語らない主戦左腕の辛島航ですら、「意見を共有できるのは大きい」と認める。
「結局は自分の体のことは自分にしかわからないけど、星さんとはそういう部分の確認ができるというか。運動メカニズムをすごく勉強しているし、知識もある方だから『今、こういう投げ方でしたよね?』とか、感覚の世界で話せるのはデカいです」
投手にとって一番大事なのは。
星は「メカニックの安定は、肩や肘を守ることにも繋がる」と言う。昨今、高校野球でも投球制限が導入されるなど、投手の登板過多への風当たりが強くなっている。しかし、彼には経験と知識に裏付けられた持論がある。
「スポーツ科学や医学をすごく勉強して、有名な論文をたくさん読んだとしても、球数制限をすることだけが正解ではないんです。僕も以前は、そういった事例を挙げて『しっかりトレーニングをして体を整えていれば、そんなに投げ込まなくていいんでしょ』って考えで。
でも、選手たちの体をケアして、ピッチングを見て、話をしていくうちに、それだけじゃないんだな、と。一番大事なのは、その選手にとっていいピッチングフォームを築き上げることであり、その再現性を高めていく作業なんです。だからこそ僕らは、選手たちのコンディションには目を光らせないといけないんです」