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大迫勇也、南野拓実らの“兄弟”に。
宮沢悠生通訳の信頼構築術・前編。 

text by

中野吉之伴

中野吉之伴Kichinosuke Nakano

PROFILE

photograph byGetty Images

posted2020/05/27 11:40

大迫勇也、南野拓実らの“兄弟”に。宮沢悠生通訳の信頼構築術・前編。<Number Web> photograph by Getty Images

ザルツブルクで成長した南野拓実(左)と、今後の活躍が期待される奥川雅也。2人とも宮沢氏が通訳を担当した。

「兄弟みたいな距離感がいいかな」

 実際、宮沢は通訳として選手との距離感をどのように取っているのだろう?

「いつも気にしているのは、兄弟みたいな距離感がいいのかなということです。選手の愚痴を聞く必要もあるけど、その愚痴が間違った方向に行きそうなときは、『それは違うんじゃない?』とちゃんと言ってあげられる距離感。『友達』とは少し違う距離感です。

 4人の選手と関わらせてもらえたから言えることかもしれないですけど、選手それぞれ距離感、関わり方というのは違うと思うんです。例えば長澤選手のように大学を卒業してダイレクトでこっちのプロの世界に入ってきた選手と、日本で圧倒的な結果を残してきた大迫選手に対してだと、少し違う。あとは地域柄もありますね。南野、奥川選手のように関西からきている選手は、やっぱりしゃべることが好きなのかなと思います。

 長澤選手とは、いろんな話ができるフランクな関係が築けていた記憶があります。逆に大迫選手みたいに背中で語る選手の場合は、最初からそっとサポートする方が合うのかなと思います。大迫選手とも最後の方はたくさん話をしていましたが……。

 選手がプレーしているのを見ていると、すごいドキドキするんです。自分がプレーしているときよりも。そして活躍してくれたらものすごく嬉しい。もう家族みたいな感じで。選手の調子が良くないときとか、試合に出られないときは距離感が難しくなります。だからと顔色を窺って何かを変えるのも違いますよね。家族の一員みたいな。でも親ではないですから、兄弟のような距離感で自分は接しています」

選手同士で会話してたら……。

 近すぎず、離れすぎず。そんな距離感を大切にしている。

 選手がコミュニケーションを取るための橋渡しが通訳の主な仕事だが、だからといって四六時中そばにいたら選手はいつまでも現地語で話をする機会が持てないし、他の選手や監督、コーチ、スタッフとの関係を築くこともできない。

「そこなんですよ。兄弟って常に一緒にいないじゃないですか。通訳もそうだと思います。いつも一緒にいたらだめなんですよ。近寄ってこようとする人もいなくなってしまうし、日本人だけで孤立してしまうこともある。だから意図的に離れることもあります。

 自分が間に入って、選手同士の会話が始まったらさっと引いたりとか、“選手がいま困ってるなぁ”と気づいても、その会話には入らない方がいいと思ったらわざと入らなかったりもします。そのあたりは常に心がけています」

「あと通訳にとって一番大事なことは、チームに馴染むことです。選手個人のためだけに仕事をするんじゃなくて、チームのために仕事をするのは、すごい大事なところなんです。そうじゃないとチームから孤立してしまう。だから、選手・スタッフとすごく話します。プレーさせてもらう機会があれば全力でやりますし。

 監督によってはボール回しに入っていいよとか、シュート練習を手伝ってくれという人もいます。そのせいで何回か削られていますけどね(苦笑)。でも、そういうときの積極性などが評価されたり、相手の態度に関係してきたりするんですよね」

【次ページ】 居場所を見つけつつプライドを。

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