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大迫勇也、南野拓実らの“兄弟”に。
宮沢悠生通訳の信頼構築術・前編。
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2020/05/27 11:40
ザルツブルクで成長した南野拓実(左)と、今後の活躍が期待される奥川雅也。2人とも宮沢氏が通訳を担当した。
ザルツブルクの下部組織でコーチ。
監督や選手の意図を正しく解釈して伝えるためには、サッカーに対する理解がなければならない。
その点、宮沢は現在レッドブル・ザルツブルクのU15でコーチを務める指導者で、不安はない。2008年9月にドイツへ渡り、ケルン体育大学に通いながら育成指導者として様々な経験を積んできている。2014年にはドイツでA級ライセンス、2019年には日本でS級ライセンスを取得している。
「指導者の勉強をして、クラブやチームのことをわかっていることは通訳として長所にもなってくると思うんです。選手にも最初に『自分は将来指導者としてやっていきたい』と伝えてあります」
プレー歴があり、指導者としての経験も豊富で専門知識がある。そのことが通訳としての大きな武器になるのは間違いない。
ただ、知識があるがゆえにジレンマにさいなまれることはなかったのだろうか。
矢野貴章の通訳を務めた筆者だが。
僕自身にはそんな経験がある。
2010年、SCフライブルクに移籍してきた矢野貴章の通訳を短期間務めたことがあった。ドイツの育成現場で多少なりとも経験を積み、ライセンスもA級まで取得していたので、ドイツサッカーのあり方や戦術傾向なども伝えられたら、なんて考えていた。
ただ、当時の僕は通訳の経験がほとんどなく、すべき仕事を明確にわかっていなかった。相談できる人もおらず、どのような立ち位置でどんな風に接すればいいのか、聞かれたら答えるくらいでいいのか、何をどこまで伝えればいいのかわかっていなかった。
自分なりに必死に務めたつもりだが、なんだか肩に力が入ったままのぎこちない通訳で、選手の迷惑になっていないかと心配になったこともある。もっとスムーズに、自然体で、いい距離感でサポートすることができていたらと、今でも当時のことを思い出す。