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大迫勇也、南野拓実らの“兄弟”に。
宮沢悠生通訳の信頼構築術・前編。
posted2020/05/27 11:40
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph by
Getty Images
コミュニケーションは人間生活の営みに欠かせない。言葉でのやり取りだけではなく、表情やジェスチャー、あるいはSNSなど様々な方法で伝え合っている。
互いに多かれ少なかれ異なる価値観や視点、習慣や常識を持っている以上、自分の意図を理解してもらえるよう相手に伝え、相手の意図を誤解しないように正しく解釈するための伝え方、受け止め方を身につけることが求められる。
複数の人間がチームとして共通の目的のためにプレーするチームスポーツにおいては、コミュニケーション能力は非常に重要な要素と言えるし、特に海外でプレーする際には、その国における言語、価値観、習慣、常識との戦いも待っている。
未知の世界にいきなり馴染むのは簡単なことではない。だからこそ通訳の存在はとても大きな助けになる。言葉を訳すだけでは十分ではない。
では実際、彼らはどんな距離感を保ち、どのように選手と信頼関係を築いていくのだろう。
あえて表現を変えて伝えることも。
ケルンでは長澤和輝と大迫勇也、そしてザルツブルクでは南野拓実と奥川雅也の通訳を務めた経験を持つ宮沢悠生に、いろいろな話を伺った。
日本サッカーが持つプレーイメージと、諸外国におけるサッカーのプレーイメージには違いがある。監督にしても選手にしても、指示をするときには伝えたいニュアンスがある。だから、選手がしっかり理解できるように解釈をし、表現を変えて伝えることは大事だと宮沢は言う。
「そうしてあげないと、選手が気づけないまま終わってしまうんじゃないかなと思います。通訳の役割はただ言葉を訳すんじゃなく、文化、カルチャーを訳す。カルチャーを伝えることが一番大きいのかなと思います。ニュアンスに関しては、あらかじめ選手や監督に『直訳するだけではなく、ニュアンスが伝わるように表現を変えて伝えることもある』と了承を得ています。
だから例えば、監督が『もっとディフェンスに行け!』という話をハーフタイムにしていたとしたら、どういう意図で話しているか考えます。『もっとアグレッシブにボールを奪いに行ってほしい』というニュアンスなら、それこそ『相手に突っ込むくらいの勢いで』とか、『かわわされてもいいから、ボールにガツガツ行こう』みたいな感じに変えています。そのまま『ディフェンスにいけ』だけだと、選手の解釈頼みになってしまいますから」