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コロナに最後の大舞台を奪われても。
引退アドゥリスとビルバオの稀有さ。

posted2020/05/27 19:00

 
コロナに最後の大舞台を奪われても。引退アドゥリスとビルバオの稀有さ。<Number Web> photograph by Getty Images

屈強な肉体に柔らかな足元の技術と冷静さ。アドゥリスはバスク出身らしさを凝縮した、いぶし銀のストライカーだった。

text by

工藤拓

工藤拓Taku Kudo

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Getty Images

「アスレーーーーーーーーーーーーーーーーティック!」

「エウプ!」

 お馴染みの掛け声が無人のスタンドに響き渡る。

「アスレーーーーーーーーーーーーーーーーティック!!」

「エウプ!!」

 ピッチ上では2つの列を作ったチームメートたちが、均等に2メートルの距離を開けて立っている。みな下はジーパン、上はユニフォーム姿。背番号は揃って20で、口にはマスクを着けている。

「アスレーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーティーッィク!!!」

「エウプ!!!」

 その光景を目の当たりにすると、アリツ・アドゥリスは驚きと嬉しさと恥ずかしさが入り混じったような笑顔を浮かべた。

「アラビ! アラバ! アラビン、ボン、バ! アスレティック! アスレティック! ゲウリーア!」

 掛け声に続き、勢いよく流れはじめたイムノのイントロと仲間たちの拍手に包まれながら、彼は妻と2人の娘と共にピッチに足を踏み入れた。

 チームメートや監督、スタッフたちが作った花道に導かれ、向かった先は北側サイドのペナルティースポット。それは彼が現役最後のゴールを決めた場所だった。

股関節の痛みがあまりに悪化。

 この2日前、アドゥリスは現役引退を表明した。

 リーグが中断された3月以降、長らく抱えていた股関節の痛みは「もうどうすることもできない」ほどに悪化していた。

 最終的な決断は、医師から「少なくとも普通に日常生活を過ごす」ため、股関節に器具を埋め込む手術を勧められた時点で下したという。

【次ページ】 30代半ばにピークを迎えた異能。

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アリツ・アドゥリス
アスレティック・ビルバオ

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