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2000年代プレミア回顧。ベンゲル、
モウにファギー、3名将の天下争い。
text by
粕谷秀樹Hideki Kasuya
photograph byGetty Images
posted2020/05/20 11:30
アーセナル、チェルシーともに当時最先端の戦術を用いた好チームだった。それでもマンチェスター・ユナイテッドは王者の風格を見せた。
シーズン失点15という恐るべき堅守。
それにしてもベンゲルはマインドゲームに脆かった。感情的になりすぎる。そのうえ、自らのアタッキング・フットボールを信じるあまり、守備の強化を疎かにした。アンリも嘆いている。
「控えの層、とくに守備陣は手薄だったので、主力が負傷すると大幅に戦力ダウンした」
連覇を狙っていたアーセナルは優勝したチェルシーとは12ポイント差の2位に沈み、その後15年が過ぎた今日まで、リーグタイトルは一度も手にしていない。
2004-05シーズンのチェルシーは圧倒的に強かった。勝点95/失点15は、ともに当時のリーグレコードである。とくに失点15はいまだに破られていない驚異のデータだ。
1試合平均は「0.39」。3試合に1度しかゴールを奪われないのだから、モウリーニョの采配は見事というしかない。
“オイルマネー”と組織の構築。
ペトル・チェフ、ディディエ・ドログバ、アリエン・ロッベン、パウロ・フェレイラ、リカルド・カルバーリョなど、確かにチェルシーはビッグマネーを投下して強化を図った。このクラブを2003年7月に買収したロマン・アブラモビッチの経済力は、嫉妬も手伝い世間では不評だった。市場価格を壊した、と批判もされた。
しかし、選手たちに自信を植えつけ、クラウディオ・ラニエリ前監督が果たせなかった組織の構築をもモウリーニョは短期間でやってのけた。カネでつかんだ成功だけではなく、監督としての功績にも注目しなくてはならない。
続くシーズンはホームで18勝1分、負けなし。新戦力のマイケル・エッシェン、モウリーニョのアドバイスによってジャンクフード中心の食生活を見直したジョー・コールの奮闘などで、難なく連覇した。
ユナイテッドはキーンの退団とポール・スコールズ、ライアン・ギグスの加齢でゲームコントロールがままならず、アーセナルは新旧交代の最中。その他のクラブは追いすがる気配もない。しばらくの間、チェルシーの天下が続くはずだった。