ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
オシム、コロナ禍の欧州から魂の言葉。
「私はまだ働きたい。ジェフの……」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2020/04/22 11:50
オーストリアのクラブ、シュトルム・グラーツには今もオシム伝説が残る。グラーツの観客席の垂れ幕には今もオシムの顔と名前が……。
「豊かで強い人たちが、それを武器としてさらに力を」
――私はまあつつがなくやっています。
「それが一番だ。よく食べて健康的な生活を送ることだ。この機会だからこれまで出来なかったことをやるのも悪くはない。それで1歩か2歩進むことができる。
ただ、すべてに注意は必要だ。政治的には……どこかひとつの国の問題ではないから、より一層の注意が必要だ。問題は世界規模で起こっており、“ある者たち”はすでに考えているはずだ……最も豊かで強い人たちが、それを武器としてさらに力を得ようとしている。この災禍を武器のように考えて力を拡大しようとしているはずだ……とても危険なことが起こり始めている。われわれのほとんどが無力化しているこの時期にそういう動きがあるのは注意すべきだ。
サッカーの話をすれば、私はさらに多くの日本人――とりわけ若い選手たちがヨーロッパでプレーして欲しいと願っている。優れた選手たちがチームにスムーズに馴染んでプレーしているのは、日本サッカーの進歩だ。トップチームでずっとプレーする選手も増えている」
「選手自身が試合開催の結論を出した」
「私が興味を抱くのは、昔も今もそうだが、日本はもちろん中国などアジアの選手たちだ。
選手や戦術、技術などの比較は常に興味深い。今、ヨーロッパでプレーしている選手が多くいるが、彼らが帰国した後、その国のチームに何かをもたらすことができる選手たち。この流れは素晴らしいことだし、とてもポジティブな側面だと思っている。もしかしたら閉塞した今の世界で、唯一のポジティブで興味深いことかもしれない。起こっている状況を鑑みたときに。それだけは確実な進歩と言えるのだから」
――ボスニアはどうなのでしょうか?
「リーグ中断前の最後の試合は、直前に決行するかどうかを決めたようだった。
ゼレズニチャルにとっては小さなダービー(相手はボスニア第3の都市トゥズラに本拠を置くトゥズラシティ、1対0でゼレズニチャルの勝利)ともいえる試合で、クルバビッツア(ホームスタジアム)には多くの観客が集まった(5534人)。
開催についてクラブが責任を回避しようとしたので……選手たち自身が話し合って試合開催の結論を出したと聞いている。
これは、とてもポジティブなことだ。
デリケートな状況の中での、選手たち自身による勇気ある決断だった。危機的な状況をともに生きようという連帯感を示すことができたからだ。そんなときでもサッカーはできるということを」