フランス・フットボール通信BACK NUMBER
差別と戦ったミーガン・ラピノー。
メッシ、ロナウドらを痛烈批判。
text by
クリストフ・ラルシェChristophe Larcher
photograph byLionel Hahn/L'Equipe
posted2020/03/22 11:55
彼女の存在は、サッカー界、スポーツ界を越え、多くの人々に勇気を与えるアイコンとなった――。
「コリン・カペルニックには大いに勇気づけられた」
――FIFAやUEFAの有力者たちの態度をどう見ていますか?
「彼らが10cm進むためには100年かかる。
世界で最も強い力を持つこの2つの組織は、深刻なテーマに対してわれ関せずの事なかれ主義をとっている。
百害あって一利なしで、私に言わせればイングランドやイタリア、フランス協会もそこは変わらない。差別的な歌を歌うサポーターは、永久に出入り禁止にすべきだと思う!」
――それでは……あなたは若いころに、誰の影響を受けましたか?
「まず母親デニーズの名前を挙げたい。彼女はフェミニズムが時代の先鋭的なテーマになる以前から、フェミニズムのビジョンを持っていた稀有な女性だった。
私は保守的な家庭の出身だけど、彼女は家庭の中で知らず知らずに進歩的な役割を担っていた。母は夜働き父は昼間に働いていたから、ふたりが家事を分担し食事や掃除も手分けしてやっていた。そんな男女平等の家庭で育ったのが良かったと思う」
――スポーツ界では誰ですか?
「コリン・カペルニック(アメリカンフットボールの選手。黒人に対する警官の過剰暴力に抗議し、アメリカ国歌斉唱をボイコットして2016年から所属先を失う)には大いに勇気づけられた。今の私に至るまでに、彼から受けた影響は大きい。
私も発言し、要求を掲げているけど幸い仕事を失ってはいない。でも彼は、黒人だからという理由で仕事を奪われてしまった。私たちが所属する社会は、明らかに白人優位主義がまかり通っている。
一般的に言えば、私は社会的弱者を支えるために自分の名声を利用している人たちを尊敬している。アスリートもアーティストも、ときに過剰ともいえるセレブリティを享受している。私たちはある種の才能を与えられて生まれてきた。それは生来の特権で、他人のために影響力を行使しないのはエゴイストであるといえる」
フランスの法律は進歩的だが社会は違っていた。
――今回のワールドカップでは、30人ほどの選手がゲイであることをカミングアウトしましたが、フランス人はひとりもいません。2013年にリヨンでプレーしたあなたとしては、どうしてだと思いますか?
「フランスで1年を過ごせたのはとても有益な経験だった。開かれた文化に接することができるという思いでフランスに旅立った。ただ、たしかにフランスの法律は進歩的だけれども、実際に暮らしたフランス社会の現実はそうではなかった。
私が所属したスポーツの世界で彼女たちは、自分がどう見られているかを常に気にしていた。
私は『性交が完全に不能なアメリカ人』のレッテルを貼られた。そのうえ私だけがゲイであることをカミングアウトしていたから、“ゲイのシンボル”と見なされた。私は私でしかないのに……。私のような存在は見たことがなかったのだろうと思う。そんな画一的な雰囲気が私にはショックだった」