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森崎浩司が語るうつ病と双子の絆。
「必ずまたなる」という発想の転換。
text by
了戒美子Yoshiko Ryokai
photograph byShiro Miyake
posted2020/02/21 12:15
今はクラブアンバサダーとして活動する森崎浩司。彼ら兄弟の存在は、スポーツ界にとってきわめて重要なものだ。
眠れない、食欲低下からはじまって。
――辛い描写もあるのですが、読後感は前向きでした。
「うつってどうしてもネガティブに捉えられますよね。だから、僕らがこうやって表に出ることによって、世間のイメージを僕らなりに変えていきたいんです。このご時世、表には出していなくてもストレス社会で苦しんでいる人はいっぱいいると思うので、サッカーに関係ない方にも読んでほしいですね」
――現役中、小野剛さん、ミシャ(ペトロビッチ)や森保一さん、城福浩さんといった監督たちが理解して協力してくれたエピソードが印象的ですが、告白することはやはり大きな決断だったのではないですか?
「はい。最初に言うときは勇気がいりました。本当にしんどいときはなかなか自分の口から言えないから、カズ(和幸)から言ってもらったこともあったんですよ。思考がまわってないし不安だし、自分の言葉で『今こういう症状で』って伝えられなくなってしまうんです」
――病名も、オーバートレーニング症候群やうつ病など診断名が何回か変わっていますね。
「それは、オーバートレーニング症候群は、うつ病と近い症状があります。その時その時で、それぞれの診断がありました。
時間の経過の先に、うつ病との診断になる場合もありました。初期は眠れないとか食欲がなくなるとかが出てきて、重くなると症状が増えてくる。感覚の違和感から始まって、パフォーマンスが落ちて、息が上がる。でも寝てないし食欲がないので回復どころじゃない。
当たり前のことができなくなって『こんなこともできないのか』って自分を責める。もともと、試合に負けると自分のプレーが悪いからだと思っちゃうタイプなんです。責め続けてそれが頭から離れなくて、夜も頭が休まらない。それが続くと……という感じですかね」
人のせいにしない、地元のため。
――私だったら、自分ではなく誰かのせいにしてしまいそうです。
「責任を冷静に切り分けたり、いい意味で他の人のせいにするっていう考え方ができなかったんですよね。だから苦しんでしまったかなと」
――ただ同時に、プロ選手としては自分に多くを求めるからこそいいプレーができるという面もありますよね。
「サッカー選手としてやっぱりこだわりとか、そういうものがないとレベルアップって難しいですよね。でも、そのなかでも時々緩めてあげたり、自分を甘やかすみたいな感覚があればよかったんです。でも僕はもともとの性格上、つきつめて責任感を感じてしまうタイプで。
それとやっぱり、広島生まれで、ずっとサンフレッチェで育って、このチームを引っ張りたいって勝手に思いながらやってた部分もあるので」
――地元のためという気持ちはモチベーションでもあり、自分を追い込む要因にもなってしまった。
「その辺りのバランスがもう少しうまくできればなって、引退してから思うんです(笑)。当時は、自分のことを客観視できているようで、全然できてなかった。
本にも出てくる主治医の松田文雄先生に、1人の選手として自分を客観的に俯瞰的に見てあげて、性格自体は変わらないから考え方を変えていこうって言われたんです。
そうしたら、徐々にですけどこんなに世界が変わるんだなって。その後も悩んだり落ち込んだりはしますけど、引きずらなくなりました。もともとネガティブな考え方をするタイプだったのが、だいぶポジティブになったかなと」