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トルシエが見た西野朗代表監督。
「西野はタイの選手を劇的に変えた」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byAFLO
posted2020/01/25 11:30
タイのU23代表監督とA代表の両方を指揮する西野朗監督。森保一日本代表監督との対決も楽しみだが……。
「本当に安定した成績を挙げるには……」
「また国際レベルでも、高いレベルの試合は少ない。ほとんどが地域内の試合に限られる。タイやミャンマー、ラオス、カンボジア、ベトナムといった国々同士の試合だ。選手が得られる経験は限られる。経験値をあげるためには、自分よりも高いレベルの相手との試合が必要だ。そうした試合を実現するのは簡単ではなく、時間がかかるのは間違いない。
もちろんだからといって、ベトナムやタイが国際大会で良い成績を収められないわけではない。2年前のベトナムを見ればそれはわかる。しかしタイ対オーストラリア、タイ対イラク、タイ対サウジアラビアといった試合を見ると、まだまだ不十分であることがよくわかる。本当に安定した成績を挙げられるまでにはもう少し時間がかかるだろう」
「タイの選手は力を出し切れるようになった」
――ところで西野はタイ代表を変貌させましたが、プレースタイルも変えたと思いますか?
「彼はイラク戦で選手を大幅に替えた。それはすべての選手にチャンスを与えるという彼の意志を示している。これまでのタイにはなかった考え方だ。西野のマネジメントと方法論は、タイの選手たちの行動や考え方を劇的に変えた。
たしかに昨夜のタイは、より足元でのプレーが多くスピードも普段に比べ遅かった。いつものタイは、もっとスピーディにボールを前に運ぶ。スペースの使い方もうまい。だが高いレベルになると、より正確なボールコントロールが求められる。正確で速い判断も必要だ。西野はボールをしっかりとキープして、粘り強く攻撃を組み立てるやり方を試みた。しかし残念ながらそれでは十分ではなかった。
私が思うに東南アジアでは、コレクティブであることが基本コンセプトだ。ディシプリンのある選手たちがひとつになってプレーする。しかし高いレベルでは、個の力で1対1の戦いに勝つことも求められる。
彼の成果は、選手たちがすべての力を出し切るようになったことだ。タイの選手たちの顔を見ると、持てる力のすべてを出しながら試合に集中しているのがよくわかる。常に言葉を交わしながらチームのためにコレクティブにプレーする。そうした態度は、これまでのこの地域には見られなかったことだ。
ただ、選手たちは以前に比べ規律を身に付けてはいるが、パーソナリティの面ではまだ物足りない。個のポテンシャルも十分ではない。というのも彼らのほとんど全員が、国内でプレーしている選手たちであるからだ。
東南アジアと中東では、まだ大きな差がある。特に個人の表現の面において顕著で、個人として力を出し尽くすという点において違いは大きい。中東の選手たちはより成熟しているし、人間としても確立している。個の判断においても上回り、能力も高い。
それは様々な国際大会を経験することで得られたものだと私は考えている。彼らは常に他国のサッカーに触れているのに対し、タイやベトナムはちょっと孤立している。そこが問題だ」