セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(5)
“反社”の奥底にある文化と純粋さ。
posted2020/01/09 11:00
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Takashi Yuge
そこで新春特別企画として、潜入取材した弓削高志さんが体験した生々しい実態を、全5回にわたってお送りする。最終回はクルバを率いるリーダーの言葉、そしてウルトラスという文化について――。
“ウルトラス”とは何者なのか。
本場イタリアのグループの一員になった僕はある日、リーダーのカルミネに尋ねてみた。
「俺の前の仕事? 軽トラックの配送だよ。乳製品を工場から小売店に配達すんのさ。15年間毎日、毎日モッツァレッラ、モッツァレッラだぞ!?」
中肉中背。どこか左とん平を思わせるカルミネには愛嬌があって、彼はたいがいは人懐こい笑顔を浮かべている。だが、彼は一度クルバ(ゴール裏スタンド)で拡声器を握ると、泣く子も黙る悪鬼へと豹変した。
カルミネと発煙筒の煙にまみれ、チャントに声をからし、敵対グループとの抗争に身を置く週末を過ごしながら、僕は日本にいた頃、衛星TVの画面の向こうに憧れた海外サッカーのスタジアム文化の中枢に届きつつある、という実感をつかんでいた。
W杯を4度制したこの国のサッカーを構成する、何か大事なものが“ゴール裏の裏”にもきっとある。僕はそれが知りたかった。
発煙筒300本持ちこんだっけなあ!
本名カルミネッロ・クアルトゥッチョ。通称カルミネが仲間たちとウルトラスグループ「ボーイズ」を結成したのはもうずっと昔、1986年のことだ。78年に創設された町最初のグループ「ウォリアーズ」は、4年限りで解散していた。
「俺はまだ17歳だったが、ガキの集まりでもレッジーナを愛する気持ちは誰にも負けなかった。だからグループ名は『ボーイズ』なのよ」
「これまでで最高の思い出? そりゃあ、'99年に(レッジーナが)セリエA初昇格を決めた試合だな。あんとき、トリノとのセリエB最終節にこの町から2万人が行ったんだ。2万人だぞ! (当時のスタジアム)『デッレ・アルピ』に発煙筒300本持ち込んだっけなあ」
半島南端のレッジョ・カラブリアと北都のトリノとは、1400km近く離れている。電車移動ならどうやっても最低12時間はかかる距離だ。
「いいことばかりじゃなかった。'89年の(セリエA昇格をかけた)プレーオフで、クレモネーゼにPK戦で負けたときは最悪だった。700km離れた(中立開催地)ぺスカーラに町から3万人が駆けつけた。向こうの応援団はたった700人だったっていうのによ、あんときの悔しさときたら……」