セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(1)
「火薬のデパート」と化すゴール裏。
posted2020/01/05 11:00
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Takashi Yuge
そこで新春特別企画として、潜入取材した弓削高志さんが体験した生々しい実態を、全5回にわたってお送りする。第1回は中村俊輔が所属した南イタリア・レッジーナのゴール裏へ足を運んだ際の衝撃について――。
『ボルゲッティ』という珈琲リキュールを見るたびに、僕はスタジアムのゴール裏スタンドを思い出す。
「クルバ」と呼ばれるゴール裏へ行くときには、いつもアルコール25度のそれを2杯呷ってから行くことにしていた。
過激派サポーター「ウルトラス」の住み処に踏み入ろうとするなら、頭と体を“戦闘態勢”にしていく必要があった。とても素面ではやっていられない。
イタリアのゴール裏とはそういうところだ。
「クルバに来たい? 本気なのか」
「おまえ、クルバに来たいのか。本気なのか」
中村俊輔がセリエAのレッジーナというクラブに移籍した2002-03シーズン、僕は本拠地のレッジョ・カラブリアという町に住みついた。地元の市役所で日本人観光客向けの広報ボランティアとして働いていた。
広報局の同僚にペッペという名の巨漢がいた。本職は地元紙の記者だが、市の広報局にも籍を置いていた。
朝の定時からたっぷり2時間遅れる“部長出勤”がペッペの常で、煙草をせがまれながら話し込むうちに、二日酔いの彼が町のウルトラス最大勢力「ボーイズ」の中枢メンバーで、ゴール裏にもかなり顔が利くことを知った。
ピンとくるものがあり、ウルトラスのリーダーを紹介してほしいと頼み込んだ。
「ゴール裏スタンドの最前列ゾーンの只中に混じりたい」と言うと「本気なんだな」とペッペは念押ししてきた。
クルバが、一見の観光客はおろか堅気の地元民でも近寄れない場所であることぐらいは承知していた。
だが、そこに潜り込むことを、当時の僕は“本場の発煙筒を間近で見るチャンスだ”程度にしか考えていなかった。