セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(1)
「火薬のデパート」と化すゴール裏。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byTakashi Yuge
posted2020/01/05 11:00
熱狂するレッジーナのゴール裏。しかしその場に行ってみると、想像以上の修羅場だった。
発煙筒がセメント壁や塀の陰に……。
バシュッ!
長さ20cmほどの発煙筒は、マッチのようにコンクリートの壁に擦り付けられると一瞬の炸裂音とともに着火し、火花をまき散らしながら凄まじい量の煙を吐き出した。
セリエAのゴール裏スタンドには、派手な横断幕や応援チャントとともに、白や赤、緑のカラフルな火花や煙が付き物だ。TVで観たことのある人も多いだろう。
発煙筒はクルバの“華”だ。
レッジーナのホームスタジアム「オレステ・グラニッロ」の南側ゴール裏にも、試合ごとにそれが百本単位で運び込まれ、セメント壁や塀の陰に巧妙に隠されていた。
「ナカムラがいるならいてもいいな」
あるホームゲームの日。ペッペと落ち合った僕は試合前に"ゴール裏の裏"へ連れて行かれ、そこで「ボーイズ」の幹部たちに顔通しをされた。
「こいつ、ちっとは気合い入ってるみてぇだから、面倒みてやってくんねぇか」と紹介された僕を、チーチョと名乗る、強面のスキンヘッドが睨んできた。
「おう、おまえ……名は?」
チーチョは副リーダーだった。つるりとした頭に無数の傷跡があった。
「タカシ」と名乗ると、彼はそれを聞くなり「ガハハ!」と笑い出した。
偶然だが、僕の名が地元レッジョの方言風に「ンタカッシャ(=棺おけの中)」と聞こえたらしい。
「おまえはクルバに死にに来たのか。レッジーナにナカムラがいるなら、俺たちのなかに日本人がいてもいいな。イタリア中のウルトラスでもうちだけだろう。よし、ンタカッシャ、俺たち最前列の真後ろについて来い」
いくつかチームのチャントを事前に覚えていったことも幸いした。こうして、僕はウルトラスの一員になった。