セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(1)
「火薬のデパート」と化すゴール裏。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byTakashi Yuge
posted2020/01/05 11:00
熱狂するレッジーナのゴール裏。しかしその場に行ってみると、想像以上の修羅場だった。
興奮のあまり、つかみ合いや殴り合い。
クルバでの応援は否応なしに熱が入る。
危ないのは、レッジーナが失点したときより、ゴールを決めたときの方だ。
前後左右上下にぎゅうぎゅう詰めの立ち見客2000人が、瞬間沸騰する。興奮のあまり、つかみ合いや殴り合いが起きる。
少しでも怯んだり、踏ん張る四肢から力を抜いたりすれば、押し倒されて堅いセメント床とのキスが待っている。だから、体をぶつけて押し返せない人間に、クルバでの観戦は勧められたものじゃない。
すぐに眼鏡をあきらめてコンタクトにした。試合中は常に"上"に注意することも覚えた。発煙筒だったり、ペットじゃないボトルだったり、あるときは人間そのものだったり、危険物は必ず上から降ってきた。
最前列ゾーンにいることを許される、ということは、コールリーダーの指示を受けて率先して声を出し、手を叩き、試合の間中腕を振り上げ続けることを意味した。
クルバ全体を仕切っていたのは「ボーイズ」のリーダーで、カルミネという名の男だった。
グラウンドとゴール裏スタンドを隔てる、高さ2.5mほどの強化ポリカーボネート製の透明フェンスの上に備え付けた、小さな足場に立ちながら拡声器片手にいつもがなり立てていた。古参新参分け隔てなく声を出さない者を容赦なく怒鳴りつけながら、レッジーナを叱咤し、対戦相手を呪う野次を煽り続けた。
サッカーの試合を観るだけのはずなのに、クルバに行くといつも体も頭もヘトヘトに消耗した。少しでも冷静な思考を持っている人間なら、1回で懲り懲りだと言うにちがいない。
だが、僕は見たかったのだ。
いつも画面越しでしか見られなかった、炎と煙を自分の手のなかに。
ユーベに勝った1カ月後の試合。
2004年12月12日。ホームでのカリアリ戦だった。
雨模様の薄闇のなかで、レッジーナが3-2で逆転勝ちした試合だ。
中村俊輔のセリエA挑戦3年目、監督にワルテル・マッツァーリ(現トリノ)を迎えたこのシーズン、レッジーナは随所で勝負強さを発揮していた。
わずか1カ月前には、信じられないことにFWイブラヒモビッチやFWデルピエーロ、DFカンナバーロにMFネドベドが揃っていた怪物軍団ユベントスを相手に、ホームで2-1の勝利を収めてもいた。
だから、冬の雨が降ろうが寒風が吹きつけようが「グラニッロ」のゴール裏は奮い立っていた。