セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
実録・無法ウルトラスに潜入(1)
「火薬のデパート」と化すゴール裏。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byTakashi Yuge
posted2020/01/05 11:00
熱狂するレッジーナのゴール裏。しかしその場に行ってみると、想像以上の修羅場だった。
着火係がタイミングを誤って……。
バンッ! んがあああッ!
点火された100連発ロケット花火が、連続する炸裂音とほとばしる火花とともに恐ろしいスピードで曇天に向かって放たれていった。そして、鈍い爆発音と呻き声が上がった。
これだけ大量の火薬への点火作業には慎重を期する。慣れていたはずの着火係だが、作業を続けるうちにタイミングを誤り手元が狂った。暴発の衝撃で裂けた彼の両手が、血で染まっていた。
大量の煙と煤以外に色のない視界のなかで鼻と口を覆いながら、ウルトラスの仲間たちが血だらけになった着火係をさも馴れた動きで粛々と運び出していった。この程度で大騒ぎするんじゃねぇ、とでも言わんばかりに。
試合は終盤に入り、76分にデローザというDFが勝ち越しゴールを決めると、クルバ全体を野太い雄叫びと肉体のぶつかり合う鈍い音が包んだ。ヒリヒリと喉を痛めつける大量の煙と、人いきれから上がる湯気が白い。質量がないはずの火花でも、打たれれば熱さより痛さを感じることを僕はその日、知った。
使い捨ての横断幕に火が燃え移り、フェンスを越える勢いで火柱が上がった。薄闇を照らす冬空の業火を見て、周りの男たちはボルテージを上げている。
いったい何が、彼らをここまでさせるんだろう。
ウルトラスは、何のためにサッカーの応援をしているんだろう。
ゴール裏の現場に来てみれば、何かしらウルトラスの実態がわかるかと思っていたが、かえってわからないことが増えるばかりだった。
警備員は、誰ひとりいなかった。
試合が終わっても呆然としたまま、しばらく動けなかった。
周りを見渡し、あることに気づく。メインスタンドやバックスタンドには数十人近く配置されているスチュワード(警備員)が、クルバには誰ひとりいなかった。危険すぎてなり手がいないことを察するのに、さほど時間はかからなかった。端的に言えば、そこは無法地帯だった。
「新入りってのはおまえか」
顔通しのときにはいなかったリーダー、カルミネが声をかけてきた。レッジーナが勝って気分は上々だ。
「港のそばのリヴェルタ広場わかるか? 俺たちの本部、あそこにあるからよ。今度、顔出せよ」
誘いは歯並びの悪い笑顔だった。