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キルギス戦までに見えた、森保一の
ノーマルフットボールとリアリズム。 

text by

田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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photograph byJFA/AFLO

posted2019/11/15 11:50

キルギス戦までに見えた、森保一のノーマルフットボールとリアリズム。<Number Web> photograph by JFA/AFLO

吉田麻也は代表史上8人目のAマッチ通算100試合出場を達成し、森保ジャパンの勝利に貢献。2010年の代表デビュー戦時の監督は岡田武史元代表監督だった。

一見、戦い方に一貫性がなく見えるが……。

 もうひとつの徹底したリアリズム、目的合理性に関しては、目的に応じた割り切った戦い方が彼にはできる。そこに一切の私情・感情をはさまない。これもまた、なかなか出来ることではない。もちろん監督である以上、誰もが目的に応じた判断を下す。だが、結果を求めて自らのコンセプトから逸脱すると感じた際には、どうしても何らかの感情を引きずる。森保にはそれがない、ように少なくとも外見上は見受けられる。ひとたび目標を定めると、淡々とそれに向かって進みそこに何の迷いもない。

 選手の成長を促しつつ寄せ集めだったグループを大会中に見事にまとめ上げ、フィリップ・トルシエを唸らせた守備戦術で韓国に対抗した2018年アジア大会決勝。そして今年のアジアカップでは、守って勝つことに徹したラウンド16のサウジアラビア戦、勝つことだけに徹した準々決勝のベトナム戦、攻守にアグレッシブさを発揮し全力で勝ちに行った準決勝のイラン戦と、試合ごとに戦い方を変えた。そして東京五輪を想定しながら、ハリルホジッチ流であり世界のトレンドでもある縦に速い攻撃サッカーをブラジルで貫き通したコパ・アメリカ……。

 戦い方だけを見れば一貫性は何もない。

 だが、ベースとなるコンセプトは変わっておらず、何よりも目的合理性において何らブレがないという点で、すべては森保の中で一貫している。

 しかもそれをピッチ上で破綻なく具現できるのが、森保の特異な才能である。過去から現在に至る日本人監督の中で、彼のようなタイプは例を見ない。個人的には欧州のトップにも匹敵するポテンシャルではと思っている。

 代表監督就任以来、森保が犯した唯一最大のミスが、3-1でカタールに敗れたアジアカップ決勝の戦い方(試合の入り方)だった。彼ならばそのミスも、今後の糧にできるとは思うが……。

なぜ中島翔哉を先発にしなかったか?

 さて、キルギス戦である。

 W杯アジア2次予選の対戦相手であるキルギスは、侮れないチームだった。

 アグレッシブさとディシプリンの高さ、チームとしてのプレーの速さなど、これまでアジアでの存在感こそ薄かったが好チームであるといえた。

 そうした相手の特徴と劣悪なピッチコンディションを考慮して、森保が選んだのはポゼッションよりも前線の速さを生かす戦い方だった。

 そのための永井謙佑と伊東純也の起用、しかも中島翔哉は先発ではない。コパ・アメリカ以降、ボールを持ちすぎてプレーの加速化が難しかった中島をこの試合で先発させず、攻守のバランスが取れスピードがある原口元気を起用したのは妥当な選択であった。

【次ページ】 日本は難しい戦いに90%の力で勝利した。

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