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山を走って世界一を目指す女性研修医。
医師国家試験前の悪夢を乗り越えて。
posted2019/06/23 08:00
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph by
Sho Fujimaki
「(医師国家試験に)合格するまで、落ちる夢ばかり見ていました」
研修医として働きながら国際舞台で戦っている女性の山岳ランナーがいる。子鹿のような軽やかな走りと、競技スキーで鍛えた胆力を武器に、世界の頂点を目指す高村貴子(26)だ。
国内のトレイルランニング界を牽引してきた歴史ある大会「日本山岳耐久レース」(通称ハセツネ、71.5km)で昨年まで3連覇中、そして今季も世界の強豪が集ったスカイランナーワールドシリーズ第1戦「粟ヶ岳スカイレース」で3位に入っており、現時点では国内で敵なしの状態だ。
そんな高村だが、今年の2月に臨んだ医師国家試験は、人生で1、2を争う大勝負だったという。
「大学6年生だった昨年も、7月まではレースのことで頭がいっぱいだったんです。ちょっと試験をなめていたというか……。だから、夏から年明けまで、猛烈に追い込んで勉強したんです。10月のハセツネは久しぶりに山を走ったという感じで、よく優勝できたな、と」
循環器系や呼吸器系の科目で苦労。
とくに苦労したのは、体系的な知識の理解が必要になってくる循環器系や呼吸器系などの科目。逆に、暗記科目は昔から得意だ。
「暗記は体力でなんとかなりますから。走っていない分、体力をすべて勉強につぎ込んでいました。試験前数ヶ月は、失敗する夢や遅刻する夢ばかりみて……まったく熟睡できませんでした。レースではここまで張り詰めることはないので、とにかくきつかったです」
医師国家試験は合格率が約90%と高いからこそ、落ちたらどうしよう、というプレッシャーも大きい。
試験当日も緊張のあまり、答案用紙に受験番号を記入したか後から不安になるほどだったが、猛勉強のかいあって無事に合格。4月から長野県上田市にある国立病院機構信州上田医療センターに勤務している。
「この病院で働きたいと思ったのは、以前に出場した『太郎山登山競走』がきっかけです。スタート会場が病院のすぐ横で、上田は街と山が近くてなんていいところなんだろう、と(笑)。大学時代を過ごした北海道のことは大好きなんですけど、世界一になるにはこの病院でなければダメだと思いました」