フランス・フットボール通信BACK NUMBER
リバプールとトッテナムの違いとは。
両クラブを熟知する男が語る内情。
text by
ティエリー・マルシャンThierry Marchand
photograph byFrederic Mons/L'Equipe
posted2019/05/31 17:00
リバプールやトッテナムのフロントとして活躍したダミアン・コモリ氏。現在はフェネルバフチェのSDを務めている。
リバプールとロンドン、という違い。
「リバプールはひとつの街で、トッテナムはロンドンという街のいち地域だ。違いはそれだけだがその違いが大きい。
ロンドンの不動産価格は信じられないほど高く、トッテナムはスタジアムの建設に巨額を投資しなければならなかった。リバプールがアンフィールドの増築で済ませたのは、観客席やボックス席の値段を上げたくなかったからだ。
社会・経済的状況が両クラブでは異なる。また街や地方のアイデンティティーもある。リバプールでは『われわれはイギリス人ではない。スクーザー(リバプール人)だ』という。それがすべてを表している。アンフィールドにひとたび入ると、スタンド全体があなたを心地よく迎えてくれる。
トッテナムは違う。北ロンドンは(トッテナムとアーセナルの)ふたつに分かれている。アイデンティティーは(リバプールほど)強くはない」
両クラブとも強いエモーションが。
「リバプールでは2012年のリーグカップ準決勝第1戦、マンチェスター・シティを相手にジェラードのゴールで1対0と勝った後のことだ。試合後に会ったジェラードの最初の一言が『第2戦もサポーターが熱くなるのは間違いないと、今週、プレスに向けて言わないと』だった。彼はすでに次の試合に入り込んでいて、しかも勝つ気満々だった。
トッテナムで私が思い起こすのは、ダニエル・リービーという想像家(2001年からクラブオーナーであり会長も務める)だ。新しい練習場をつくったとき、それがひと財産を費やすものでありながら、彼の喜びようは半端なかった。投票の日、7人の理事のうちただひとり反対票を投じたものが私にこういった。『これを作ることで、毎年選手がひとり獲れなくなる』と。リービーは私を支持しながらこう反論した。『考えるべきはクラブの未来だ!』。
彼の想像者としての側面はスタジアム建設からもうかがえる。リバプールではオーナーたちは遺産を継承した。リービーはどうだったか。彼がやってきたとき、クラブには何もなかった。そこから彼は、トッテナムをヨーロッパのトップにまで導いた。去年はタイトルを何も獲得していないのにクラブは1億3500万ユーロの収益をあげた。
彼のやり方を見ていると、アーセン・ベンゲルとダビッド・ディーン(アーセナルの元副会長。ベンゲルをクラブに招聘し、息の合ったコンビでアーセナルの全盛期を築いた)のふたりを合わせた印象を私は受ける。
とはいえ私が最も印象深いのは、どちらのクラブも働きながら強いエモーションを感じたことだ。そこが他とはちょっと違っていた」