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リバプールとトッテナムの違いとは。
両クラブを熟知する男が語る内情。 

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ティエリー・マルシャン

ティエリー・マルシャンThierry Marchand

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photograph byFrederic Mons/L'Equipe

posted2019/05/31 17:00

リバプールとトッテナムの違いとは。両クラブを熟知する男が語る内情。<Number Web> photograph by Frederic Mons/L'Equipe

リバプールやトッテナムのフロントとして活躍したダミアン・コモリ氏。現在はフェネルバフチェのSDを務めている。

クロップに感じる「100%のDNA」。

「リバプールが決勝に進むのは2年連続だが、私は何も驚いていない。昨季も彼らは代理人へのコミッションだけで4800万ユーロを支払っている。2011年にルイス・スアレスを獲得する際に、資金不足で借金せざるを得なかったからだ。それだけでフランス・リーグアンの平均的クラブの年間予算に匹敵する。それだけの金をかけて彼らはここまで来たということだ。

 トッテナムはもっと驚きだ。彼らはラウンド16で、自分たちがドルトムントに勝つのは難しいと思っていたからだ。リーグで13敗もしているチームがCL決勝に進むのも初めてのことだ。シティとの準々決勝はほとんど敗れかけていたし、準決勝のアヤックス戦も勝利が決まったのは96分のことだった。

 それはとりもなおさず彼らがこの5年間、素晴らしい監督の下でチームを進化させてきたからに他ならない。ロリスやケイン、デル・アリといった選手たちとの契約を継続しながら新たな選手たちを補強した。

 それ以外では、クロップのスタイルの中に私はリバプールのDNAを100%感じる。トッテナムは逆で、ポチェッティーノがチームに厳格さとプレッシング、アグレッシブさ、高いインテンシティをベースにしたプレースタイルをもたらした。最後まで諦めないメンタリティーは、以前のスパーズにはなかったものだ。

 たしかにトッテナムは元来攻撃的なスタイルだったが、今ほどスピーディーではなかったし、縦への志向性も強くはなかった。『クラブに根づいた文化を変えるには時間がかかる』とは、ポチェッティーノが今季繰り返し語っていることでもある」

それぞれのサポーターにも色がある。

「トッテナムサポーターの忠誠心は驚くばかりだ。最後に獲得したタイトルは2008年だし、リーグ優勝は1961年まで遡る。そうであるのにウェンブリーの試合には9万人のサポーターが詰めかけた。

 彼らは熱心だが批判的でもある。一方、リバプールのサポーターはクラブに忠実であまり批判はしない。トッテナムのサポーターにはある種の諦観がある。

 私がクラブに入って最初の試合はアストンビラ戦で0-1の敗戦だった。PKを獲得したがしくじって同点に追いつけなかった。試合後、副会長が私のほうに身をかがめて『トッテナムにようこそ』と囁きかけたのをよく覚えている。

 リバプールは全く違う。バルセロナとの準決勝第1戦の後で私はフェネルバフチェのスタッフにこういった。デンベレが4-0と差を広げる絶好の機会を逃した後で、リバプールのすべての人間――クラブ関係者もサポーターも街の人々も、『これでチャンスが巡ってきた。第2戦はこっちのものだ』と思ったハズだ。それこそがリバプールのメンタリティーだ。

 どちらのサポーターも信じられないぐらいに熱烈だ。だが、トッテナムのサポーターが『ここまで到達した。これから勝てないことはわかっているが』と自嘲的であるのに対し、リバプールはまったく逆で『これから何が起こるかわからない』とポジティブに考える。

 そのメンタリティーはヒルズボロの悲劇(1989年4月15日、ノッティンガム・フォレストとのFAカップ準決勝で96人のファンが死亡した大惨事)で一時期途切れたが、彼らは驚くほど野心的で『自分たちは世界最強クラブのひとつだ。どこにも負けない』という意識は強い。リーグ優勝18回、CL優勝5回という伝統が、その意識をさらに強固にしている」

【次ページ】 リバプールとロンドン、という違い。

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